ユダヤ的メランコリー

 
 ●MINIMAL COMPACT / RAGING SOULS
 
 ミニマル・コンパクトの1985年の作品。彼らのアルバムのなかで一番好きなアルバムだ。ミニマル・コンパクトはメンバーがイスラエル出身という珍しいバンドだ。そのせいかメロディはユダヤ的なメランコリーに侵食されているかのように暗い影を引きずった音で構築されている(ぜんぜん関係ないが、僕はベンヤミンを読むといつもミニマル・コンパクトの音楽が頭のなかに鳴り響く…)。
 不思議な魅力を湛えた彼らの音楽をどのように語ればいいのだろうか? 停滞感が常に付きまとっていて、鳴り響く音の現在の裏側に、付きまとって離れない過去がべたっとくっついているかのようだ。旋律の反復もアラブ的反復とは異なり、同じところをぐるぐる回るほかには何もできないかのようであり、どうしようもない運命に対する倦怠感が付きまとう。そして、メランコリーだけが降り積もっていく。
 そうした旋律に歌詞が乗っかる。例えば、マルカの歌詞女性の自立をテーマにしたものが多い。"MY WILL"では"My will is stronger than me"と、あるいは"When I go"では"Cause now I know it's not alright for me to close my eyes and live a lie"と歌われる。だが、この自立そのものがメランコリックな旋律に乗ってゆっくりとつぶやくようにマルカの低い歌声で歌われるために、その先に明るい未来などどこにもないということが嫌と言うほど感じられるのだ。
 ボーカルは基本的にマルカ(女性)とサミー(男性)の二人。曲ごとにどちらかがメインボーカルを取るというスタイルであり、コーラスを売りにしたバンドではない。
 このアルバムにはプロデューサー兼ギタリストとしてコリン・ニューマン(あの素晴らしいワイアー!)、パーカッションにマーク・ホランダー(あの素晴らしいアクサク・マブール!)、ベースやメロディカや鉄琴にはリュック・ヴァン・ライシャウト(あの素晴らしいタキシードムーン!)が参加しており、まさに鉄壁の布陣。