『AERA』2004年5月17日No.21

つい時間つぶしに『AERA』なんぞを買ってしまった。特集のひとつが「派遣vs.正社員」というそれなりに時事的なテーマではある。記事の前半は、ヤフーBBなどの顧客情報流出がなぜ起こるのかということなのだが、記事によれば「急激なIT化があらゆる企業で起きた結果、従業員のモラルハザードを招いているおそれがある」とのこと。

80年代以降、ドイツのSAP社などが開発したパッケージソフトによって、給与、会計、営業、設計などの企業の基幹業務、顧客管理業務などがIT化された。その結果、これまでコンピューターとは無縁だった企業でも、職場の隅々にまでパソコンが行き渡り、社員や顧客のあらゆる情報がサーバーに蓄積されるようになった。

こうしたことを背景に、即戦力としてITに詳しい人間が必要となってきた。しかも、派遣先企業の多くは「正社員のITの知識や意識が低いため、情報管理は派遣社員に丸投げされる」。これがモラルハザードの第一の要因。
第二の要因は、派遣社員の雇用形態として、「スポットでは高収入でも、雇用は不安定で、社会保険や福利厚生を含めた待遇は正社員に比べて見劣り」がし、さらに「派遣SEの下に、さらに別会社から派遣されたSEが何層にもぶらさがっていることが多い」ため、「正社員の側からすれば」、「ITスキルの高い派遣社員に仕事を奪われるというやるせなさとあきらめに、派遣社員の方からすれば、重要な仕事を担っているのに、立場も待遇も不安定という不満につながる」。つまり、こうした「鬱積した職場に、膨大な顧客などの個人情報と、それを自在に取り出せる権限が放り出されているのだ」と。
さて、この記事は、どうやらこれら二つの要因がモラルハザードを引き起こしていると分析しているようなのだが、こんな内容はもちろん信じられない。
最近の顧客情報流出にIT化の進展が深くかかわっていることは事実だろう。それを背景に、第一の要因も確かにあるかもしれない。ただし、顧客情報の持ち出しを派遣社員がおこなった場合に限ってであり、顧客情報流出の主役が派遣社員であるかのような論調はいかがなものか*1。では、第二の要因はどうか。俗流心理学的な分析は『AERA』お得意だとは思うが、顧客情報の流出要因として正社員の「やるせなさ」「あきらめ」や派遣社員の「不満」をもってくるというのも、やはりいかがなものかと思う。そもそも記事前段のヤフーBBの箇所では、顧客情報を持ち出した元派遣社員は「人と接するのが苦手で、メールをやりとりする友達もいなかった。いたずらメールに会社が対応してくれて、孤独が紛れた」と書いてあるのだが、これは派遣社員の「不満」とはほとんど関係ないのではないか。あるいは、ローソンやファミリーマートアプラスJCBジャパネットたかたや…などの流出には、本当に正社員の「やるせなさ」「あきらめ」や派遣社員の「不満」が関わっていると主張するのだろうか。
記事の後半では、いつの間にか正社員と派遣社員との関係についての内容にシフトし、前半とのつなぎがどうにも落ち着きが悪いのだが、まぁどうでもいいか。正社員と派遣社員に聞いた定量アンケートも正社員367人、派遣社員46人というバランスの悪さも、もう突っ込む気もない。その他・・・まぁいいや(笑)。要するに、変な記事を読んで、うんざりしたというだけの話。

*1:正社員による持ち出しはないのか? あるいは、紛失は? インターネット経由での顧客情報流出は?