川原泉『ブレーメンⅡ』5巻(白泉社)

川原泉の『ブレーメン』シリーズはこれまでの川原作品と比較してクオリティが低い。知性を有する動物であるブレーメンたちとのヒューマン・コミュニケーションが主要モチーフとなっているため、そのセンチメンタリズムによって、これまでの作品に強く見られた川原泉のアナーキックな笑いが無害化されてしまっている。もちろんこれまでの作品でも最後にはセンチメンタリズムに落としてはいた。だが、『ブレーメン』はセンチメンタリズム自体を作品の原動力にしてしまったために、センチメンタリズムを食い破るあのノンセンスな笑いがほとんど発生しなくなってしまった。これは非常に残念だ。
これまでのように変わり者の主人公の視点をもっと強調し、その主人公のアイロニカルな目でおかしな世界を突き放して相対化し、笑いを取っていったほうがいいのではないか。
おそらく川原泉自身が読者を笑わせようとする以上に泣かせようとしている。だが、そのやり方は漫画を単純化してしまうことにしか貢献していない。黒猫ポー君を様々な人が連携して救済するエピソードなどは、相対化の視点がまったく欠落している結果として、ヒューマニズム的なコマの単なる列挙になっており、あまりにも無残だ。ヒューマニズムをベースにしつつも、絶えずそれを相対化し、笑いを生み出していくことによって、世界を多重に捉えていくことこそが、作品世界にダイナミズムを生み出す。