矢作俊彦『ロング・グッドバイ』(角川書店)

矢作俊彦が19年ぶりに二村永爾シリーズを発売。と言っても、このシリーズを読むのは初めてなので、シリーズを追いかけてきたものとしての意見などは言えない。率直に言って、いかにもハードボイルドらしい作品であり、悪くはないと思うが、傑作というほど感動はしなかった。
ただし、ハードボイルドというアメリカ産ミステリーを日本において展開する際に、日本におけるアメリカの問題、とりわけ米軍基地から目を逸らさずに描き出そうとする志し(?)には好感を持った。ただ、ヴェトナム戦争を含むヴェトナム現代史との絡みにはもう少し厚みを持たせた方がいいのではないだろうか。主人公が読む2冊の本(ヴェトナムを舞台にした冒険小説とノンフィクション。前者はなんと元やくざの映画プロデューサーが書いた小説であり、タイトルは『楽園のヘルボーイ』という:笑)に頼りすぎなのではないか。
ところで、主人公の二村永爾は本好きだ。ディケンズフーコーを呼んでいる警官なんてそうはいない。
ハードボイルドと言えば、原寮の沢崎シリーズの最新刊ももうすぐ出るらしい。原の小説は記憶は心もとないものの、書籍化されているものは一応、全作読んでいる。こちらも10年以上ぶりではないだろうか? 新本格綾辻や法月と言い、今年は妙に懐かしいシリーズが登場する年だ。