実数系リズムへの扉を開く?

 
 ●ウバタマドットコム / マクロメタソーマコスモス
 
 ウバタマの2ndアルバム。1曲69分41秒の見事な大作。マクロメタソーマコストもすという言葉はP.K.ディックの『ヴァリス』の創作ノート「釈義」に出てくる言葉らしい。『ヴァリス』は大昔に読んだが、さっぱり訳の分からない小説だったという印象しか残っていない。難解と言うより、宗教的ビジョンの逝っちゃっている感が強く、当時の僕にはついていけなかった(ただし、読み通しはした。真面目だったなぁ…)。
 まぁ、そうしたことはともかく、ウバタマのこのアルバムは、日本におけるサイケデリック・トランスの到達点のひとつであると言っていいと思う。ただし、いわゆるサイケデリックトランスの音とは表情が異なっているため、トランスファンにはあまり好かれていない印象がある。なぜか。彼の音が非常にクールであり、単純なる快感原則で音作りがなされていないからだ。
 このアルバム自体、黄金比である「1:1.618」をリズムに取り入れることがキーアイデアとなっている。サイケデリック・トランスが独特のトランス感覚の獲得をこそ重視するとするならば、ウバタマの音楽によって得られる感覚はかなり理知的な感覚だ。そして、その点こそが僕が気に入っている理由でもあるのだ。
 ウバタマは、整数系リズムから実数系リズムへの扉を開けたい、音が新しいものであれば気持ち良いも悪いもない、新たな感覚の獲得こそが重要だ、などというような内容をインタビューで語っている*1。しかも、「そもそも、人間がそういう音楽を必要としているかどうかは、また別の話」というような、高橋悠治とも似たアイロニカルな認識も有している。彼をサイケデリック・トランス・ミュージシャンにありがちな、単なるオカルト/ニューエイジ/逝っちゃってる系として片付けることはできない。
 ま、サイケデリック・トランスの逝っちゃってる感は、レイブに行くとそれはそれでおもしろいんだけどね。そう言えば、去年はレイブに行かなかったなぁ。

*1:サイケデリック トランス パーティ ハンドブック』より