コンサルたちの暴走

 
 ●服部隆幸『脱・片思いマーケティング』(日経BP社)
 
 なかなか面白い。帯に「本書は、大分県の印鑑屋さんがワントゥワン・マーケティングに取り組む物語」とあり、興味を惹かれて購入。印鑑屋でワントゥワンを実施して、次回の購入なんてありうるのか? 結論から言えば、本書はワントゥワン・マーケティングの物語ではなく、商品開発とエリア・マーケティングによる勝利の物語となっている。そして、本書の物語の先に日本独自のワントゥワン・マーケティングの体系の構築必要性を夢見るのだ。実在の印鑑屋さんがモデルとなっており、著者のコンサル経験が物語風に著述されているので読みやすい。
 ちなみに、最後に登場人物が「マーケティングは民族の歴史観によって支えられなければならない」と呟くのだが(この手のナルシシズムはあちらこちらに出てくるのだが、まぁご愛嬌だろう)、「民族」という言葉の使い方には僕は抵抗を感じる。「民族」ではないと思う。また、「民族」という言葉を使うことがマーケティングの深化に貢献していないと思う。
 そもそも、以前から気になっていたのだが、コンサルは珍妙な理屈をこねる傾向がある。例えば、本書の前のほうに、日本は八百万の神がいるので、心の奥底に感謝と祈願のDNAを刷り込んでいるが、欧米はキリスト絶対神だから攻撃的であり、そうであるがゆえにギブ&テイクの権利関係が刷り込まれている」などという内容が書かれている。無根拠な断定に近いと思う。日本人が攻撃的でないという事実は論証が困難だ。
 また、元BCGの長島牧人の『戦略構想力を磨く』という本でも、すごい理屈がこねられていた。人間が何が好きかというと、アイスで言えば乳脂肪たっぷりのプレミアムアイスだ。なぜかと言えば、人類の歴史は氷河期とか旱魃とか、飢えとの戦いだったからだ。人間の体はいつ食糧難になっても耐えられるようにできるだけ脂肪分をためるようにできており、飽食の時代といってもまだ20年ぐらいの話なので人間の肉体的進化がついていっていない、んだとか。しかし、プレミアムアイスが好きな理由は本当に「人類の飢えとの戦い」などという壮大な話なのか? 僕は中トロは好きだが、大トロは脂っこすぎて気持ち悪いぞ! 日本人の辛いもの好きにはどういう歴史が関わっているんだ? 
 そう言えば、元BCG社長の堀紘一の珍妙な部分については、2004年12月1日の日記で触れたので、そちらを参照のこと。船井幸雄のオカルト嗜好については言わずもがな。なぜこうなるのだろうか?