さりげないストリート感覚があふれる

 
 ●セウ・ジョルジ / クルー
 
 音楽専門チャンネルMUSIC ON! TV」のPBSピーター・バラカン・ショー)は好きな番組だ。ピーター・バラカンらしい幅広く、かつ渋い選曲がなされているので、見ていてとても刺激的だ。一昨日の金曜が祝日だったので昼間に寝そべりながらTVをザッピングしていたら、ちょうどPBSの再放送がなされていた。「ちょうど見ていなかったので、ラッキー」と見ているなかで、流された曲のひとつがこのセウ・ジョルジの「チーヴィ・ハザォン」だった。
 要するに、僕は慌ててアーティスト名をメモし、早速買いに走ってしまったのだが、その価値は十分にあった。ジョルジ自身が作曲した「チーヴィ・ハザォン」はアルバムの1曲目に収録されている。
 実はこの曲のビデオが流れ、曲の良さにハッと興味が惹かれたまさにそのときに、たまたま電話がかかってきたため、このビデオをちゃんと見ることができていない。ライナーノーツにたまたまこのビデオの解説がなされていたので、そのまま引用。

ジョルジはストリート・ミュージシャン役だ。ギターを抱え、建物に腰掛けて歌い始める。見物人も彼を囲み出す。やがてレコード会社の人間役だろう、デフォー(ウィレム・デフォー:引用者注)がジョルジの目の前に名刺を示す。ジョルジはそのまま歌い続けるが、デフォーはジョルジのポケットに名刺を入れ、電話をくれというポーズを取って立ち去っていく。最後は、建物から出てきたビル・マーレーがジョルジを見下ろしながら、靴でギターをノックするように叩き、どこかほかへ行けと手で合図。よろよろとジョルジは立ち去っていく。

 特に何が起こるわけでもなく、ほとんどがジョルジの演奏シーンばかりで構成されているのだけれど、さりげないエピソードの挿入がなかなかスタイリッシュで目を引くのだ。
 何より「チーヴィ・ハザォン」の曲そのものがかっこいい。カヴァキーニョ(ウクレレの親戚)の高音の音色が奏でる哀愁漂う儚げなメロディが美しい。そのメロディに合わせて、歌と朗読を入り混ぜながら歌っていくジョルジの声は更にすばらしい。ファルセットを織り交ぜた、どことなく絶望感の漂う脱力した歌声。
 それはどこの街角にも見られるような別れだ。主に歌われるのは前に向かって進んでいこうという思いなのだが、ちょっとした未練は残している。その割り切れなさが複雑なニュアンスを留めつつ見事に歌い上げられている。サンバという音楽ジャンルの豊かな可能性がここにある。
 ライナーノーツによれば、ジョルジは10代のころに弟を殺され、実際に7年も路上で暮らしていたらしい。アルバム最後の曲がベゼーハ・ダ・シルバの歌で有名な「俺はファヴェーラ」。ファヴェーラとはブラジルの貧民街のことだが、このような社会派サンバの代表曲を取り上げるところはジョルジのバックグラウンドと関連しているのかもしれない。そして、ジョルジの歌に現れるさりげないストリート感覚もこのあたりと無縁ではないのかもしれない。
 

クルー

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