カエターノ・ヴェローゾ / "フェリーニへのオマージュ"

 97年にフェリーニの故郷リミニに隣接するサンマリノ共和国で行われたライブが収録されているアルバム。異論のある人は多いかもしれないが、実は個人的にカエターノの作品で一番好きなのはこのアルバムだ。フェリーニの映画音楽で使われている曲だけでなく、映画から連想される曲、このコンサートの場だからこそ歌いたかった曲など、彼の思い出が溢れる親密な空間がここには広がっている(このライブの思い出が語られているカエターノ自身による長文のライナーノーツは必読)。
 カエターノはこのライブの時には喉の調子が良くなかったと語っているのだが、とてもそんな風には聴こえない。それどころか拍手が終わり、いったん曲が始まると、あたかも無のなかにただ彼の歌声だけが浮かんで存在しているかのような不思議な錯覚を起こしてしまう。それほどの強烈な魅力を発しているのだ。まさにカエターノ・マジック。そして、この歌声を聴いていられるのなら他には何も望まないと、ただそのように思ってしまう。いつまでも聴いていたいと、それだけを願ってしまう。
 

フェリーニへのオマージュ

フェリーニへのオマージュ