Tim Sparks / Tanz

 ジョン・ゾーンのレーベルTZADIKのRADICAL JEWISH CULTUREシリーズからの2000年のアルバム。CD屋で視聴して買ったのだが、僕が視聴しているのを見かけた店員に「すごくいいでしょう!」と話しかけられ、「いい、いい! すごくいいね!」と返事をして買った記憶はいまでも残っている。店員とのちょっとしたコミュニケーションにすぎないのだけれど、音楽が好きそうな店員の好印象とともに記憶されているアルバムだ。
 ティム・スパークスの静かで内省的なギターの音色を聴くには、やはり夜こそ相応しい。高度な早弾きなどを披露しているわけではないが、聴きやすいメロディでありつつも、音のひと弾きのなかに幾重にも内側に折りたたまれているかのような複雑な響きが含まれており、いつ聴いても飽きることがない。これらの曲が漂わせる哀愁がユダヤ独特のものだとは思わない。事実、ユダヤ音楽のなかにはアラブ音楽と紙一重的な部分も濃厚だ。そして、これらの音楽性は既に僕らのDNAのなかに深く入り込んでいる。ちなみに、ベースにはジョン・ゾーン率いるマサダでも有名なグレッグ・コーエンが、パーカッションには昨年エルメート・パスコアルと一緒に来日したことも記憶が新しい、リズムの魔術師ことシロ・バプティスタ翁が参加。
 そう言えば、当時、僕はティム・スパークスの名古屋公演@TOKUZOに出かけていったのだった。客が非常に少なく、ガラガラだったことを覚えている。純粋な客は20人もいなかった。しかも、この公演そのものがTOKUZOが定期的に主催していたギターシリーズかなにかの一環として開催されており、数少ない客もどうやら自らギターシリーズだから来たという感じの人たちばかりだったのだ。そのため、ティム・スパークスがMCでジョン・ゾーンやイクエ・モリの名前を出したときも、皆ポカーンとして何の反応もなかったことを今でも忌々しい記憶として覚えている(イクエ・モリの名を出したかどうかは、少し記憶が怪しい。ジョン・ゾーンの名前は確かに出した)。音楽不毛の地・名古屋を改めて思い知った記憶のひとコマ。
 

タンツ

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