山田正紀 / 神狩り2 リッパー

 山田正紀が作家生活30周年記念作品として、デビュー作『神狩り』の続編を発表したので読んでみたのだが、あまりおもしろくない。物語の語り手が透明化されずに語り手としての存在感を押し出しているのは良いとしても、その語り手の過剰な思い入れに引いてしまうことしきり。例えば、次のようなくだり。

 バスの扉が開いて親衛隊(SS)の隊員たちが次々に下りてきた。
 いや、はたして彼らを、SS、ときめつけてもいいものかどうか。彼らはたしかにSSの黒いブーツを履いてはいるが、それとは裏腹に白衣を着ているのだ。そればかりではない。これには何の意味があるのか、彼らはその全員が顔に白粉をはたいているのである。
 この連中は何者なのか。まるでSSの道化師のようではないか。そうでなければカーニバルの死神か。その白と黒のアンサンブルが何か異常なまでに不吉でグロテスクな印象をかもし出していた。

 これは登場人物の語りではなく、あくまで情景描写を行っている地の文であるのだが、にもかかわらずものすごく感情過多だ。で、つい鼻白んでしまう。
 前作がこんな文章だったかどうかは覚えていないのだが、前作に比べると言葉遣いは現代風になっており、明らかにサイバーパンク以降の現代SFの語彙でもって構築されている。だが、神の領域にパノプティコンがあったりするのは…。あるいは、もしかしするとこのパノプティコンは『ハンニバル』におけるレクター博士の記憶の宮殿にインスパイアされたのかもしれない。
 物語は前作の続編なので、引き続き神の裁きと訣別するための戦い。74年に発表された『神狩り』は当時の時代思潮の痕跡を色濃く残して悲壮感さえ漂っていた印象があるが、近作には悲壮感は希薄だ。前作ほど神を追い詰めている感じも神に追い詰められている感じもしない。天使も馬鹿に見える。
 

神狩り 2 リッパー

神狩り 2 リッパー