万博のLaurie Anderson

 昨日、初めて万博に行ってきた。今回の万博にローリー・アンダーソンは3つの作品を持ってきている。万博のホームページ他の情報から整理すれば下記のようになる。
 ・WALK 2005.03.25〜2005.04.24 09:30〜18:00 @日本庭園
 ・SHOW 2005.03.25〜2005.05.31 19:00〜19:30(上映時間25分) @愛・地球広場
 ・LIVE 2005.04.02〜2005.04.03 各日16:00〜・19:00〜 @EXPO DOME
 このうちWALKとLIVEを見ることができた(LIVEを2回見たかったので、2回目のライブと時間が重なるSHOWはまたの機会に延期)。
 日本庭園で繰り広げられているWALKは6つの歌、4つのインスタレーション、2つのアイミュレットという3つの要素からなっている。日本庭園入口でアイミュレット(名刺より少し大きいサイズのカード)とMP3プレーヤーを受け取り(前者は無料でもらえ、後者は1000円の保証金と引き換えに借りることができる)、庭園内を歩いていく。そして、それぞれのポイントでアイミュレットを聴いたり、MP3プレーヤーによる6つの歌を聞いたり、インスタレーションを見たりするのだ。
 率直に言って、日本庭園内のあちらこちらに設置されているインスタレーションが成功しているとは思わない。広い庭園のなかにそれぞれポツンと置かれている作品は、それぞれがちょっとしたワン・アイデアに過ぎないため、どうしてもちゃちなガジェットに見えてしまう。
 アイミュレットは仕組み的にはそれなりにおもしろい。指定のポイントでアイミュレットの太陽電池の部分を、その場所にある装置に向けたまま耳に当てると、音が聞こえてくるという仕組み。装置から赤外線が出ており、それをアイミュレットの太陽電池部分で受信させると、音声に変換するという仕組みらしい。ただし問題は音の精度がかなり低い点にある。そのため分かりやすく単純な音しか伝達できていない。万博のように屋外で、しかも人通りが多くうるさい状況下ではかなりつらい(そもそも各ポイントでアイミュレットの使い方を説明している人の声自体が音を聴く妨げになっている)。自分以外に誰もいない状況で聴くのならいいかもしれないけれど。
 では、6つの曲はどうか。これは借りたMP3プレーヤーでもって指定の場所で指定の曲をヘッドフォンで聴くという、MP3という点を除けば従来型のアプローチ手法に頼った作品ではある。だが、人間が持つ二つの耳の特性を反映させるバイノーラル方式で録音されているだけあって臨場感はなかなかのものだ*1
 流れてくるのは、ローリー・アンダーソンが実際に「その場所で受けたひらめきから生まれたもの」であるらしい。ただし、「その場所」を示唆する言葉がまったく使われていないわけではないものの、音とその場所との結びつきは必ずしも明瞭ではない。エレクトロニック・サウンドにあわせて俳句のように断片的な言葉が次々と語られるのだが(記憶が曖昧だが、例えば、「わたしのなかの光のような、鐘のようなものは誰?」「わたしの毎日をそこらじゅうにばら撒くと、木の葉のようになる」というような言葉だ)、日本庭園の池の周りでイルカの鳴声のような音が流れてくると、かなり不思議ではある。
 それにも関わらず、彼女の音楽を聴きながら風景を見ていると、特に昨日は曇り空であったために灰色の空の下で、冷たい風に吹かれながら風景を見ていると、電子音、彼女の朗読、ヘッドフォンのなかに入り込んでくる外の音などが入り混じりながら、万博的な空間からちょっとだけ切り離されることができる。それは例えば、池の鯉が音もなく泳ぐ姿を見ることに孤独を聴くとまでは言わないけれど。ただ少なくとも商業的な空間のなかにおいても、それぞれのものは商業性とは独立して存在しているということに触れることはできる。
 とは言え、これらSHOW全体もやはり彼女のLIVEには及ばない。長くなったので、LIVEの感想は次に分ける。
 

*1:ただし、MP3プレーヤーのレンタル率は非常に低く、使っている人はほとんど見かけなかった。万博来場者の多くはテーマパーク的な祝祭空間を期待してきているのである以上、時間をかけて孤独にじっくり聴きこむ必要のあるこのような作品があまり受けないことは仕方がない。そもそもこの手の場所は複数の人で来ることが多い。