清原なつの / サボテン姫とイグアナ王子、二十歳のバースディ・プレート

 「清原なつの忘れ物BOX」と題して、彼女の未発表作品が2冊刊行された。しかも、未発表作品をすべてカバーするために高校時代の同人誌作品まで収録されており、ファン必携の作品集だ。
 例えば、「忘れ物BOX」2巻目の『二十歳のバースディ・プレート』の表題作などは清原なつのを初めて読む人にもお薦めできる圧倒的なクオリティを誇っている。この作品は1976年生まれの女の子とその家族(両親と母方の叔母の3人)と彼女の恋人が集っているなか、女の子のお祖父さんが彼女の誕生日に毎年送ってくれる自作プレート(彼女の誕生日を記念した焼き物)をきっかけにみんなの過去が次々と語られていく連作だ。彼女が生まれた1976年を皮切りに、1977年、1995年、1989年、1985年、1991年、1980年、1994年、そして未来。時間を行ったり来たりしながら、様々な年における様々な出来事がその年の社会的なトピックスとともに語られていく。登場人物を歴史的に描いていくことで立体的に造形していく見事な作品だ。
 清原なつののすばらしさをどう語れば良いのだろうか? もちろん『花図鑑』や『私の保健室へおいで…』などの、普通の少年少女の性を描いた傑作群を第一に挙げるべきだろうとは思う。その系列については今回の作品群でも「サボテン姫とイグアナ王子」が典型的だ。たった7ページほどの作品であるにもかかわらず、御伽噺的な物語に清楚なエロティシズムを混じえ、見事な小品に仕上がっている。
 この系譜については、1980年発表の「五月の森の銀の糸」などにも萌芽が見られる。同性愛と異性愛のポジションを固定化することなく描き出すことによって、画力的には未熟ながらも忘れがたい魅力を放っている。
 だが、彼女についてはもっと漫画の技術的な洗練振りを語りたいような気もする。例えば、1989年の「さよならにまにあわない」なども漫画の常識をラクラクと乗り越えていて圧巻だ。田舎を舞台にした古典的なラブストーリーかと思えば、意外にもSF的な展開を示し始め、最後には御伽噺に落とすというありえない物語展開が、彼女特有のシンプルな線で描かれることで不思議に爽やかな読後感を残す。
 この線についてはもう少し具体的に語っていきたいのだけれど、もう眠いのでまた機会に。そんな時が訪れればだけれど。
 

サボテン姫とイグアナ王子 (清原なつの忘れ物BOX (1))

サボテン姫とイグアナ王子 (清原なつの忘れ物BOX (1))

二十歳(はたち)のバースディ・プレート (清原なつの忘れ物BOX (2))

二十歳(はたち)のバースディ・プレート (清原なつの忘れ物BOX (2))