大島司 / シュート

 多くの漫画好きにとっては言わずもがなの話だが、最高のサッカー漫画は『キャプテン翼』ではなく、大島司の『シュート』だ。後世の漫画史家(?)はこの点を決して誤解すべきではない。
 天才・久保嘉晴が作りあげた掛川高校サッカー部が久保の遺志を継ぎ、ミラクルチームと呼ばれるまでに成長していく漫画なのだが、なんと言っても見所はトータルフットと呼ばれる掛高の波状攻撃だ。勢いに乗った掛高のメンバーたちが次々と怒涛のオーバーラップを仕掛け、敵チームを圧倒していく際の描写がすばらしい。『キャプテン翼』とは異なり、大島司はクローズアップ気味の絵を主体にコマを構成しており、圧倒的な躍動感を生み出していく。
 そして、極めつけは主人公・田仲俊彦の幻の左と言われる脅威のシュートだ。と言うよりも、このシュートを見事に決めた直後の、腕を天に向かって突き上げる勝利の一瞬。この瞬間を大島は、地面すれすれのローポジションから仰角気味に、画面がゆがむほどにデフォルメして捉えることで、田仲の身体を貫く歓喜の力動を見事に画の中に描き出している。読者も否応なしに、その歓喜のなかに取り込まれる。