ローリー・アンダーソン / 時間の記録 @ NTTインターコミュニケーション・センター

 日本におけるローリー・アンダーソンの初の大規模な個展。ローリー・アンダーソンについては過去に何度も書いているので、簡単に。
 いくつかの映像作品(「私たちが、ってどういうこと?」、『0&1』など)からの抜粋や愛知万博に出展されていた作品は見たことがあったし、CD-ROM作品『パペット・モーテル』は持ってもいるとは言え、これだけまとめて彼女の作品を見るとやはり非常に楽しい。
 例えば、入口を入ってすぐのところに天井から電話の受話器がぶら下がっているのだが、それを耳に当ててみると、なんとウィリアム・バロウズの声が聴こえてくるのだ(笑)。バロウズはもちろんローリーの主要な参照元だ。例えば、彼女はバロウズの「言語は外宇宙から来たウィルスだ」という言葉を引いて"Language Is a Virus"というチャーミングな歌を80年代に作っているが(この曲のビデオも本展で見ることができる)、彼の声はまさに外宇宙からの声であるかのように聴こえる。もちろん、彼の声はアッチ側にイッてしまっているヤク中の声であって、もともと浮世離れしている。だが、バロウズが既に亡い現在においてはなおさら「外部」からの声のように聴こえるのだ。どこからの声かは知らないが(笑)。そう、会場がNTTの施設であるだけに、あたかも混線してアッチ側の声が聴こえてきたかのような……。
 いかん。具体的に書いていくと長くなりそうだ。彼女は何よりもマルチメディア・パフォーマーだ。しかも、「パフォーマー」の要素が強く、「マルチメディア」については最先端のハイテクというよりも、手作りのオモチャ的な印象が強い。メガネの蔓にマイクを埋め込み、自分の頭を拳骨で殴ったり、上下の歯を閉じ合わせたりする際の反響音を増幅して聞かせる《ヘッド・ノック》、サンプリングした声や音を弾き出したり、シンセサイザーを操作したりする自作の改造バイオリンの数々、スーツのあちこちに埋め込んだ反響板を踊りながら叩く《ドラム・ダンス》、ボコーダーで自らの声を男性の声に変換させた各種作品……。だが、こうしたある種のローテクな機械遊びを圧倒的にかっこよくパフォームしてみせるところこそが、ローリーの真骨頂だ。
 その意味で、やはり彼女のパフォーマンスを記録した各種の映像作品がおもしろい。彼女のミュージック・ビデオなども、いまやなかなか見られないのだ。その意味で、なかなか日本で公演を行わない彼女の、海外での各種公演の映像を流して欲しかったと思う。
 パフォーマンス以外でもおもしろい作品がいくつもある。ひとつだけ挙げるならば「ハンドフォン・テーブル」を挙げたい。一見すると何気ない木製テーブルなのだが、悩んでいるかのように、両肘をテーブルについて自分の耳を押さえてみると、机のなかでなっている音が肘を伝わり頭蓋骨のなかを反響するのだ。彼女らしいシンプルな発想の作品だが、余計な装飾などなしに端的にインターフェイスとしての身体を実感することができる。
 本展は10月2日まで。興味のある人はぜひ。もしかすると、日本でもはやこれだけの規模でローリー・アンダーソンの個展が開かれることはないかもしれないのだ。
 
 なお、ローリー・アンダーソンについての過去の主要エントリとしては、以下を参照。
愛知万博のについては、2005年4月3日のエントリを。
・映像作品「私たちが、ってどういうこと?」とベンヤミンの歴史哲学については、2004年6月12日のエントリを。