クロノス・カルテット / 冬は厳しく

 このアルバム1曲目の表題曲、アウリス・サリネンの「冬は厳しく」は、クロノスの演奏をバックに次のような詩が女性コーラスで歌われる。2分もない短い曲だ。

鴨はあまりたくさんはいなかった。
母鴨がパンかごをさかさまにした。
鴨たちはグワッグワッと鳴いて不満そうに見えた。
水は黒かった そしてまもなく凍った。
 
冬は厳しかった。冬は厳しかった。
お金も銀行の中で凍った。
土曜の夕べの楽しみも
隔週にしかなかった。

 今日、渡った川は凍りこそしなかったが、非常に黒く、その光景を見ながら、僕はこの曲を思い出した。
 だが、むしろそのときの僕の気分はこのアルバム2曲目のテリー・ライリー作曲「狼男、月下に乱舞」の気分だ。ミニマル・ミュージックの巨匠ライリーのこの曲は、まさに「ものぐるほしき」気分にぴったりの、ちょっとチャーミングな曲だ。
 ちなみに、このアルバム内で僕が一番好きな曲は5曲目のジョン・ゾーン作曲の「狂った果実」。クロノスによる弦楽の不協和音。フリクションのレックの詞を太田裕美が朗読する。クリスチャン・マークレーの混乱したターンテーブルの介入。80年代のジョン・ゾーンらしい、ブツ切れのサンプリング感覚があふれる断片性の積み重ね*1

冬は厳しく?弦楽四重奏曲の諸相 II

冬は厳しく?弦楽四重奏曲の諸相 II

 

*1:ただし、クロノスによるジョン・ゾーンの曲の演奏では「九尾の猫」の方が良いと思う。「九尾の猫」と言えば、エラリー・クイーンを思い出す人もいるかもしれないが、そちらとは無関係。エラリー・クイーンの原題は"Cat of Many Tails"で、ジョン・ゾーンの方は"Cat o' Nine Tails"。こちらは正確には「九尾の猫」ならぬ「九尾の猫むち」のことであって、要するに結び目がついた9本の紐を束ねた拷問用のむち。なので、「九尾の猫」という訳は間違い。