『20世紀少年』16巻 浦沢直樹(小学館)

あいかわらず快調。この巻の前半では、既に正体は明らかになっている"ともだち"の視点から、主要登場人物たちの子供時代が描かれている。その子供時代のエピソードはこれまで何度も語られており、読者には既におなじみのものだ。
浦沢直樹は『20世紀少年』で子供時代のエピソードをうまく描き出してきた。簡単に言えば、「分かる、分かる」「ある、ある」という感じを読者に(ある年齢以上の読者に?)喚起させることに成功してきた。この巻では特に子供が持つ自尊心や欲望などのネガティブな感情面(いかにも子供っぽい)を中心に各エピソードが描き直されており、更には子供時代のなかに、後に世界を滅亡させるに至るような狂気のかけらを描き込むという難しい試みにアプローチしている。
前者のネガティブな感情についてはうまく描いていると思う。子供のこういう原初的な妬みの感情は僕にも確かに覚えがある。
では、後者のような狂気についてはどうか。必ずしも成功しているとは言わない。だが、そもそも世界を滅亡させるに至る狂気なんて、どうすればうまく描けるのだろうか? これまで虚の中心として感情がない存在であるかのように描かれてきた"ともだち"だが、なぜ世界を滅亡させるに至ったのかという原因はこれから描かれていくのだろうか? 何となくその部分は描かれないことによって、不可解なものとして残されるような気もするが、とにかくは今後の展開に大いに期待。