いま聴いている音楽  ルーファス・ウェインライト

Rufus Wainwright / Rufus Wainwright
昨年、発売された彼のサードアルバム『Want One』はあいも変わらず見事なアルバムで、昨年もっとも気に入ったアルバムのひとつだった。ルーファスは父親がラウドン・ウェインライト三世、母親がケイト・マクギャリグルであり、カナダの有名フォークミュージシャン二人を両親に持つという嘘みたいな育ちのよさ。だが、音楽も家柄(?)に負けず、非常にすばらしい。彼の特徴は何と言っても、気だるく伸びるあの甘い歌声だ。そして、その歌声でコテコテに甘くて甘くて甘すぎるラブソングを歌い上げる。あの歌声で耳元で歌われた日には、男も女も恋に落ちるのではないか。男も? そう現在30歳(31歳かも)であるルーファスは18歳のときにゲイであることをカミングアウトしている。そして、このアルバムで彼が甘く歌う恋は同性である男への恋だ(例外もあるが)。
自身の名前を冠するこのファーストアルバム『ルーファス・ウェインライト』の1曲目を初めて聴いたときの衝撃は今でも忘れられない。彼が誰なのかまったく知らなかったのだが、HMVで偶然に視聴し、すぐさま購入した。1曲目のタイトルはなんと「フーリッシュ・ラブ」。愚かな愛? いまどきこんなタイトルがなぜ付けるなんてどういう神経だとは思ったものの、抗しがたいとろけるような歌の魅力は圧倒的だ。歌詞もすごい。「僕は君を抱きしめて、自分の無力さを感じたりなんかしたくなんかない。僕は君の香りをかいで、我を忘れ、目に愛を浮かべながらスローモーションで微笑みたくなんかないんだ…」昔、ルーファスが好きだった男のことを歌った2曲目「ダニーボーイ」も実らなかった恋を甘く残酷に描き出していて強烈だ。残酷な青春に関する甘美な記憶?
このアルバムが発売されたときに、彼は来日し、日本でもライブをしている。ライブで見てみると、本人は「明るくて人のいいアメリカの兄ちゃん」っていう感じであり、何度も何度も冗談っぽくゲップをして笑いを取っていた。アルバムの印象から、どことなく退廃感を漂わせた繊細な青年を勝手にイメージしていたのだが、実際の彼はかなり違っており、連れてきた妹と一緒に、楽しそうにセッションをしていた姿が印象的だった。ぜひとも再来日をしてほしいミュージシャン。
ルーファスのアルバムはどれも大好きなのだが、ひとつだけ挙げるとすれば、僕はやはりこのアルバムを挙げるだろうか。久しぶりに聴きなおしてみてもすばらしい名盤。そう言えば、今年は4作目『Want Two』が出るはずだが、いつ頃出るのだろうか?