藤原和博『リクルートという奇跡』(文藝春秋)

著者の藤原和博は元リクルート社員であり、現在は民間から初の公立中学校校長として教育に取り組んでいるという変わった経歴の持ち主。著作も多い。この本はリクルート時代の彼の自伝兼リクルート史といったものなのだが、彼を含めて個性的な人たちが集まっているリクルートという企業の凄さが伝わってくる。定評がある営業力、情報誌という市場の特性、次々と立ち上げる新規事業、失敗した事業、リクルート事件ダイエーへの買収など様々なトピックスについて、リクルートの内側から語られており、非常におもしろい。
読んでみて印象に残るのはやはりリクルートの営業力の強さだ。単に営業力のノウハウ的な部分について書かれた箇所だけではない。例えば、リクルート事件ダイエーショックの際には、上層部ではなく部次長クラスが先手を打って自発的な対応を実行しているが、彼らが守ろうとしたのはリクルートの営業力の基盤である社員の自立性を重んじる風土に他ならない。リクルート事件時に藤原が社命に反してサンデープロジェクトに出演したことは有名だが、彼だけではない。自立性を守るために上層部に逆らって意見する、あるいは会社の方針に逆らってクライアント企業に対して一人一人が個人として向き合い、自社に対する自らの怒りさえ表明する。このような行動に社員を促すような風土の存在こそがこの企業を救っている。
もちろんこれらの内容に対して、実際のリクルートはそんなに立派なものではないよという意見は出るかもしれない。僕自身、さすがに手放しで賛美するほどお人よしでもない。すべての社員がそんな風だと考えるのはどうかしている。だが、社員の自立的な風土こそがリクルートを活性化させているという主張には耳を傾けるべきであり、そうした風土の構築は多くの企業にとって検討に値する重要な課題だと思う。参考になる一冊。