ジャック・フォスター『アイデアのヒント』(阪急コミュニケーションズ)

昨日は出張ついでに実家に帰っていたのだが、実家で見つけて頂戴してきた本(笑)。父親は購入したものの読んではいないらしい。そんなに分厚い本ではなく、リーダビリティも高いので、家に戻るまでに読了。
大した期待もせず実家のテーブルの上に置いてあった本を暇つぶしに読み始めただけだったのだが、予想外の収穫。発想本としては、ボストン・コンサルティング・グループのヴァイスプレジデントである御立尚資が書いた『戦略「脳」を鍛える』(東洋経済新報社)などよりも断然おもしろい。何よりもアメリカ人らしいユーモアにあふれている。著者はアメリカの広告代理店のクリエイティブ・ディレクターであり、サンキスト、マテル、スズキ、マツダユニバーサル・スタジオなどの広告を手がけた人物らしいのだが、アイデアとは何であり、どうすれば良いアイデアを思いつけるのかについて見事に解説しており、一読の価値がある。
本書ではまずはアイデアとは何かについての説明から始められる。アイデアとは何か? 著者はジェームズ・ウェブ・ヤングの言葉に賛同し、ヤングの次の言葉を引用する。「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」これは見事な定義だと思う。僕も100%賛成。アイデアが無から生まれると考えるのはどうかしている。アイデアが既存の要素の組み合わせであるとすれば、既存の要素をたくさん知っている方が有利となる。単に発想の重要性のみを強調する人はこの点についての認識が欠けていると思う。つまりは、日常的な努力が必要だということ。
以下、楽しむこと、自分を信じることなど、アメリカ人らしいと言えばアメリカ人らしい(笑)内容が語られていくが、フォスターのこの本が特にすばらしいのはアイデアは常に存在しているという確信にある。問題を解決するためのアイデアが思いつけなくても、それが存在しないというわけではない。アイデアは必ず存在するのだ。
例えば、彼は「スモーキー・ベア」をシンボルにした国立公園の山火事防止の広告を20年以上にわたって作成していたらしい。ポスターの条件はいつも同じであり、「形とサイズは決まっており、主役はスモーキー・ベア」。さらには「ひと目で意味が見てとれるくらいシンプルなものであること、どんな子供にも理解できるはっきりしたものであること、言葉を使う場合は三、四秒で読めるくらい短いものであることが要求されていた」のだ。ポスターのテーマももちろん同じであり、火の用心。つまり毎年同じものを作れと言われているに等しい。だが、それにもかかわらず、著者たちは20年以上にもわたって毎年20〜30案もアイデアを出し続けた。同じテーマにざっと500案だ。こうしたことをやり続けたからこそ著者は確信している。どんなときにもアイデアは必ず存在するのだ。
気に入った箇所をメモ代わりに引用。アメリカのジャーナリスト、リンカーン・ステファンズが1931年に書いた言葉。

 既に成し遂げられてしまったものなど、何一つとしてない。世界中のすべてのものは、これから成し遂げられるのを、新しいものに打ち負かされるのを待ち続けている。

 最高の絵画はまだ描かれていない。最高の脚本はまだ書かれていない。最高の詩はまだ生まれていない。世界中を見わたしても完璧な鉄道はなく、非の打ち所のない政府もなく、100%信頼できる法律もない。物理学や数学、また学問の特に先端的な分野は根底から変わりつつある最中だ。化学はまさに「科学」になりかかっている。心理学、経済学、社会学ダーウィンのような存在の出現を待ち望んでおり、ダーウィンの扱っていた研究分野は新しいアインシュタインの出現を待ち望んでいる。

すべてはこれからなのだ。仕事に追われていると、ついこうしたことを忘れてしまう。