東ハト編『おかしを仕事にできる幸福』(日経BP)

本書は、民事再生法の適用を申請し、一度は破綻した東ハトが、社員のモチベーションを高めるために作った社内向け小冊子が元になっている。タイトルの通り「おかしを仕事にできる幸福」について書かれた絵本。見開きで左ページに絵、右ページに文字。しかも文字は多くとも10行しかない。漢字も少ない。だから、5分もあれば読めてしまう。内容はお菓子を通してみんなを幸せにできることの幸せをかみしめようということ。
全体的な内容には特に異論はない。消費者のことを考えよう、ライバル企業と互いに正々堂々と競い合おう、仲間同士のチームプレイを大事にしよう、社会とのつながりを大事にしようなど、それぞれはごもっともと言えばごもっとも。
ただ、2点ほど気になった。
ひとつめは、何度も繰り返される「ココロ」という言葉。確かに「カラダ」という言葉もカタカナで使われるが、「ココロ」という言葉については本当に何度も何度も繰り返されており気持ちが悪い*1。社員のモチベーションを高めるために、あたかもすべてが「ココロ」の問題であるのだと洗脳しているかのようだ。洗脳という言葉が言い過ぎであることは僕も自覚している。だが、文部省の「心のノート」であるかのように思えないだろうか。「心のノート」を読まずにこんなことを言っている僕もどうかとは思うが(笑)、とにかくは心理学化する社会の典型例。
ふたつめは、この冊子はもともと社員向けとのことだが、文章が子供に語るような語り口で書かれている点だ。漢字も多くが平仮名化されている。そう、あたかも童話でも語っているかのようだ。その結果として、子供向けの童話が何か重要な内容を語っているかのように見えるのと同じように*2、この本も何らかの真理を語っているかのような雰囲気をまとっている*3。そして、その真理とは「ココロ」の重要性なのだ。だが、こういうやり方っていやらしくないか? 子供に語りかけるように「ココロが大事だよ」と書くことによって、読む人は内容に直面するのではなく、ほんわかした雰囲気に流され、何の疑問も持たずに真理として受け入れてしまう。確かに一般受けしそうな本ではある。

*1:例えば、「お菓子づくりは、ココロのおなかをいっぱいにする仕事」など。

*2:童話がくだらない内容を語っていると思っている親や子はまずいないと思う

*3:本書のなかではもちろん「真理」などという言葉は使われない。「大事なこと」と言われている