FUJI ROCK FESTIVAL 三日目 2004/08/01

●回遊ルート
またもゆっくりと午後からスタート。ハナレグミ(Heaven)のほぼ冒頭から大部分を見て、途中でWhiteのMUMに移動し最後まで。終了後はHeavenに戻って、早川義夫佐久間正英を少しだけ。途中で抜け出しWhiteに逆戻りし、プラクシスを通しで見る。Greenに移動し、JET。終了後はキーン(Red)をチラッ、ZAZENBOYS(WHITE)をチラッで、Greenに戻りホワイト・ストライプスを通し。その後ひきつづきGreenでモリッシーの代役を。途中で抜け出し、Orangeに行ってシンク・オブ・ワンを見ようと思ったら、なんとスケジュール前倒しで既に終了していた…。慌ててWhiteに引き返して昨日に引き続きベルセバを。そして、渋さ知らズ・オーケストラを聴きながら会場を後に。僕のフジロックは終了。
通しで見たのは、プラクシス、JET、ホワイト・ストライプス

●感想
ハナレグミBELLE & SEBASTIAN
ハナレグミは良質なPOPSだとは思う。彼らは昨日の日記に書いたJIMMY EAT WORLDと同様、ジャンルの規則を忠実になぞるミュージシャンだ。そして、そのジャンルなかで完成度の高い楽曲を紡ぎだして破綻がない。だが、どこまでも既視感がともなう安定したメロディラインにどうしても心が惹かれない。
一方、ベルセバも非常に良質なPOPSを作り上げるミュージシャンだ。しかし、ハナレグミベルセバとのあいだには圧倒的な隔たりがある。一言で言えば、ベルセバはPOP感覚あふれるメロディでありつつも、他では聴いたことのないメロディを描き出すのだ。事実、いくつかの曲は聴いていて先の展開が読めない。心底、恐るべきバンドだと思う。ベルセバは特に演奏能力が優れたバンドではない。スチュワート・マードックの歌すら別にうまいわけではない。だが、ベルセバを聴いていると、ただ美しいメロディがそこに浮かんでいるような気がしてくる。
ハナレグミ永積タカシの歌はあくまでも表現主義的であり、内面のやさしい思いを美しく歌い上げる。極言すれば、予定調和的に。だが、スチュワートの歌声は決して表現主義的ではない。もちろん正確に言えば、ベルセバの音楽もPOPSである以上、表現主義的でないわけはないのだが、スチュワートの軽やかな歌声は多数の楽器とあいまって、内面の表現と言うよりは繊細なレースの織物のような抽象的な幾何学模様に限りなく近づいていく。そのため、ベルセバの音楽を聴いていると、演奏も歌もいつのまにか消えてしまい、ただ美しいメロディだけがそこに浮かんでいるような気がしてくるのだ。これを才能と言ってしまえばそれまでなのだけれど、個人の才能と言うよりも、ベルセバの音楽それ自体がPOPミュージックの女神に魅入られているかのようだ。
MUM
MUM音響派的な電子サウンドをベースにしつつも、ここぞというときにピアニカやハーモニカやハンドベルなどのアコースティックな楽器を使い、叙情的なメロディを奏でる。だが、"田舎者の素朴さ"感覚あふれるメロディは正直言ってつらい。アイスランド出身という出自のせいなのかどうかは分からないが、彼らはおそらく音楽の無垢さとでもいうようなものを信じている。僕にはそれが信じられない。癒される人は癒される音楽なのかもしれないけれど、薄っぺらい音楽にしか聴こえない。
早川義夫佐久間正英
相変わらずのディープな音楽。"ぬかるみの人生"的世界観がひたすら繰り広げられる。
・Praxis, featuring Bill Laswell
圧巻。ビル・ラズウェル(B)、バケットヘッド(G)、吉田達也(D)の3人による爆音即興演奏。即興演奏は単にメロディも何もない演奏ではない。大抵の場合、各ミュージシャンの音楽的素養が反映された演奏になるのだが、彼ら3人の場合それはロックだ。各人がロックのイディオムを次から次へと好き勝手に連結させていくことによって、メロディにも歌にも捕らわれないハードロックそのものが立ち現れてきている。既成のハードロックに飽き足らない人にお勧め。
・JET
恥ずかしながらJETも初めて聴いた。熱いロック。ジミー・イート・ワールドは熱いハードロックだったが、こちらは熱いロッケンロールだ。転がる転がる。この手のバンドは大好きだ。
THE WHITE STRIPES
平凡な感想で恐縮だが、二人だけでこれだけの爆音ハードロック(少々メタル入り)を展開できることに本当に驚き。しかも、曲の展開が大げさすぎるほどにドラマチック。懐かしのオリヴィア・ニュートン・ジョンの"ジョリーン"のカバーの劇的な盛り上げはさすがにやりすぎだと思うが、今後も大いに期待。

●本日のベストアクト These Charming Men
ご存知モリッシーの代役に登場したスミス/モリッシーコピーバンド。彼らについてはWEB上でも既にかなりの物議を醸しているようだが、しかしやはり彼らには気の毒なステージだったと思う。ギリギリまで代役が発表されなかったために、Green Stageに集まった満員の観客たちは誰が現れるのかを期待して待ち焦がれていた。そう、主催者は確かに煽りすぎだったと思う。そこまで煽って紹介されたものだから、一生懸命に歌う彼らを尻目に、ほとんどの観客は会場を後にしてしまった。満員のGreenがあっという間にガラガラになってしまったのだ。このような光景はなかなか見られるものではない。
だが、彼らはがんばっていた。おそらくはスミスの音楽が大好きで、スミスのコピーをしてきたバンドなのだと思う。プロのミュージシャンたちではない。ボーカルは確かにモリッシーに似ているものの、ギターはとてもジョニー・マーとは言えない。マジで最終日のヘッドライナーを務めさせるのなら、荷が重過ぎることは明らかだ。もちろんスミス/モリッシーのファン以外には何の興味ももてないだろうし、スミス/モリッシーのファンならなおさら嫌うかもしれない。物まねバンドよりは別のミュージシャンを見たいと思う人もいるだろう。だから、会場を立ち去る観客たちを責める気にはならない。だが、そんな状況であるにも関わらずディーズ・チャーミング・メンの連中はがんばって演奏していたのだ。
彼らの演奏にはスミス特有の憂いは欠片もない。実際のところ、そんなものをコピーバンドにやられてもつらいだけだ。そして、彼らの音はすばらしいことに、スミスの音楽をコピーをすることの喜びに満ち溢れていた。ボーカルの"なんちゃってモリッシー"などはうれしそうに歌声をまね、さらには元気に身振り手振りまで加えて、観客を楽しませようとしていた。僕自身、途中から我慢できなくなって、ガラガラの前方に移動し、踊り、そして歌ったクチだ。楽しかった。本当に楽しかった。まわりで飛び跳ねているスミスファンたちも、人数こそ多くなかったかもしれないが、みな本当に楽しそうに笑っていた。
だからこそ、願わくば、彼らには来年もまた来日して欲しい。次は初めからスミス/モリッシーコピーバンドとして告知された状態で来て、演奏して欲しい。例えば、そう、Rookie A Go GoやOrange Courtあたりで。そして、スミス/モリッシー好きな人たちがニコニコしながら会場に集まってきて、バンドと一緒になってスミス/モリッシーの歌を合唱し、音楽に合わせて飛び跳ねている。そんな幸福な光景を想像してみる。幸福感あふれるスミスの音楽? そんなものは邪道だという人もいるだろう。だが、ディーズ・チャーミング・メンは本当にチャーミングなスミスのコピーバンドなのだ*1
ちなみにシンク・オブ・ワンを見るために途中で移動してしまったので*2、"I Know It's Over"をやったかどうかが気になる。もしやっていたらぜひ聴きたかった。
とは言え…、まぁベストアクトが彼らというのは、我ながら確かにやりすぎではある。

●本日のベストフード タイラーメン
フジロック名物(?)タイラーメン。なかなかいける。

●本日の心残り
あぶらだこTHINK OF ONE。なんと言ってもTHINK OF ONEが強烈に残念。時間変更を調べなかった自分のアホさ加減にうんざり。

*1:なんなら毎回何組かのコピーバンドを登場させる名物コーナーを作ってもおもしろいと思う。自分の好きなミュージシャンのコピーなら見たいと思う人はかなり多いのではないか

*2:当初からシンク・オブ・ワンを見に行くつもりだったのだが、楽しくて10分ぐらい遅れてしまった。しかし、上述の通りシンク・オブ・ワンはスケジュール前倒しのために既に終了していた。それならば、最後までチャーミング・メンを見ればよかった。