いま聴いている音楽 平安隆

平安隆 / かりゆしの月
このアルバムには「満月の夕」のカバーが収録されている。「満月の夕」はもちろんソウル・フラワー・ユニオンの代表曲なのだが、しかしオリジナルよりも平安隆による演奏の方が断然すばらしい。
沖縄出身のミュージシャン平安隆による「満月の夕」を僕は映画『豚の報い』のサントラで初めて聴いた。実のところ映画は未見なのだが、このサントラはシカラムータ大熊亘が音楽を担当していたために購入したのであり、当時は平安隆についてまったく知らなかった。
サントラを聴いていて、突然「満月の夕」のカバーが流れてきたときの驚きは忘れられない。ウチナーグチで歌われるその歌詞は、意味がまったく分からなかったにもかかわらず、非常に泣けた。いや、まったく分からなかったというと嘘になるかもしれない。直接的な意味は分からないなりにも、宇宙的な広がりを有するこの世界と、そのなかで生きる人間の想いが歌われているということが伝わってくるのだ*1

あぬ海ぬ底(すく)ぬ島から 幾千里(いくしんり)ぬ魂(まぶい)ぬ前(めー)に立ち
命(ぬち)ぬ唄 唄いながち 手(てぃ)あわち天拝(てぃんうが)む
物(むぬ)知らん童(わらび)や 石なーぐ
月(ちち)明りぬ下(しちゃ)ぬすくい神
あとぅぬ事(くとぅ) 想(うむ)い笑とてぃ
うり見(ん)ちょーてぃ肝(ちむ)やしむ

例えば、上述の歌詞を読んでも理解できる人は少ないだろうが、唄を聴くだけではもっと訳は分からない。しかし、宇宙の無限の広がりの感覚は不思議と伝わってくるのだ。

*1:沖縄の唄には、人がそのなかで生きているこの巨大な世界との独特の共生的感覚が息づいているものも多い。そして、それが沖縄の唄の強烈な魅力でもあるのだ。分かりやすいところでは、沖縄のミュージシャンではないTHE BOOMが沖縄からの影響を受けつつ作り上げた「島唄」においても、「海よ命よ神よ命よ」と歌われていたはずだ。