凄絶なる剣法漫画

平田弘史血だるま剣法・おのれらに告ぐ』(青林工藝社)
1962年に貸本誌『魔像』の別冊として発表されたものの、部落解放同盟からの抗議を受け、40年以上に亘り絶版状態だった作品の復刊。呉智英の解説も充実している。
漫画は好きなものの特に歴史的に追いかけているわけではないため、実のところ平田弘史の漫画は初めて読んだ。確かに鬼気迫る作品だ。今年の問題作のひとつ『シグルイ』はこの辺りの影響下にあるのだと理解できた。漫画の歴史は浅いとは言え、その系譜の豊かさは侮れない。
物語としては、被差別部落出身の男が剣の道を究めることによって差別に抗しようとするのだが、世間の偏見の壁は厚く、道を閉ざされ、狂気を帯びつつまわりに復讐していくという凄まじい話。ついには両手両足がなくなりつつも、剣を縛りつけ、復讐を続けていくのだ。
ところで、主人公が壮絶な最期を遂げた次のコマで、彼を恐れていた藩士たちがそろって安堵の笑いを浮かべているのだが、皆が喜んでいるということの、あからさまなまでの記号的な表現となっており、すべてのコマのなかで最も力がない。そのため、他のコマとの落差が激しい。「ヒヒヒ」「ニコーッ」「ニコニコ!」というカタカナ表記を白地の部分でおこないつつ、個性もない藩士たちがただ喜んでおり、各藩士の顔の描き方も適当だ。冒頭の方に出てくる、師範が殺されているのを見つける世話役のコマ(なんと4ページにも亘る)などもそうだが、主人公と直接的に関わらない脇役への興味のなさが描き方に反映されているのだろうか。あるいは、主人公の復讐部分を強調するために、それとの対比として使うシークエンス(感情的な強度を孕まない部分)については、適切な処理がうまくできなかったのだろうか。いずれにしてもその他の部分との落差が激しいため、同じジャンルの漫画のコマには見えない。
だが、こうした落差も決してこの作品の強烈な印象を弱めはしない。むしろ下手な判断を急ぐ前に、まずは平田弘史の『日本凄絶史』を読みたいと思う。