R.E.M.日本公演ツアー (2005/03/17/Thu.〜2005/03/18/Fri.)

 R.E.M.来日公演についてすぐに書き込むはずが、ついつい遅くなってしまった。興奮がようやく醒めてはきたものの、相変わらず連日R.E.M.の音楽を聴いている状態(笑)。とりあえず、ざっと感想を書いておこうと思う。
 今回は東京、名古屋、大阪と3回行われた公演のうち、名古屋と大阪に出かけた。だが、この来日公演は追っかけ率が高いのではないか。名古屋公演の後ろの席からは東京公演を見てきたらしい話が聞こえてきたし、大阪公演では隣の席で名古屋公演の話をしていた。ま、人のことは言えないのだけれど。
 さて、具体的な公演については、名古屋と大阪をまとめて書いておく(既に記憶のなかではかなり混じりつつあるので:笑)。
 名古屋、大阪ともに、マイケル・スタイプは耳から目にかけて帯状の緑色のペインティングをして登場(分かる人は少ないと思うが、天挑五輪の影慶のようだ:笑)。その姿はマスクで顔を隠す抵抗者のそれであり、目隠しをされた囚われ人のそれだ。
 例えば、名古屋公演冒頭の「最高級の労働歌」。前日の東京ではやられていないナンバーであり、会場のボルテージはいきなりヒートアップしたのだが、このときのマイケルの歌への集中はまさに力強い抵抗者の姿そのものだ。あるいは、R.E.M.の代表的バラード「エヴリバディ・ハーツ」のときなどは、囚われ人が世界に向かって静かに励ましの言葉を紡いでいるかのようだ。「そう、誰だって傷つくときがあるのさ。誰だって泣くし、誰だって傷つくときがあるんだから。誰だって傷つくときがあるんだから、がんばって、持ちこたえるんだ。がんばって、持ちこたえるんだ。がんばって、持ちこたえるんだ…」
 記憶が甦るままに書き進めるならば、名古屋公演のアンコールにおける「エヴリバディ・ハーツ」から「カントリー・フィードバック」に至る流れは反則だ。僕はこの「カントリー・フィードバック」が大好きなのだ。3日間の来日公演で名古屋だけでこの曲を演奏したという、ただそれだけの理由で名古屋公演をベストとして挙げてもいいくらいに。不安定なメロディを奏でる濁ったギターサウンドにのって、マイケル・スタイプの完璧な歌声が最後に破綻する。だが、この世界こそが破綻しているのだ。マイケルが何度も何度も"Crazy what you could have had(そんなものが手に入ったなんてどうかしてる)"とつぶやくように繰り返し、最後の最後には声を崩しながら絶叫する。その瞬間こそ、名古屋公演における最高の瞬間だった。思い出しても感無量だ。
 名古屋公演の記憶を続けるならば、この「カントリー・フィードバック」に続いて、新曲の"I'm Gonna DJ"が演奏された。まだアルバムに収録されていないこの曲は、にもかかわらず最近のライブでは必ず演奏されている。心地よいメロディの音階が微妙にずらされているこの曲は、その意味でまさにプライマル・スクリームに似ている。R.E.M.にしては意外な曲。アッパーでパンキッシュ。マイケルもステージ上を駆け回る。
 アッパーで思い出したが、「ジ・アウトサイダーズ」もライブのほうが圧倒的にすばらしい(ちなみに言葉の「ア」で思い出しただけで、「ジ・アウトサイダーズ」の曲自体は決してアッパーな曲ではなく、暗い)。アルバムにおけるQ-Tipのラップの代わりにマイケル自身がラップも担当しているのだが、Q-Tipの中途半端に高い声ではなく、絶望の底においてかろうじて希望を語るかのようなマイケルの低音ラップの方がこの曲には相応しい。「どうせわかってもらえない。君が言おうとしていることもどうせ分からない。だからどうしても叫びたくなる。もう一度息がしたいし、夢が見たいし、マーティン・ルーサー・キングの言葉を広めたい。僕は怖くない、僕は怖くない、僕は怖くない、ボクハコワクナイ、ボクハコワクナイ、ボクハコワクナイボクハコワクナイ…」
 だが、公演を通して最も圧巻だった曲は何かと問われれば、もしかすると「ウォーク・アンアフレイド」を挙げるかもしれない。実のところ、僕はこれほどまでにすばらしい曲だとは気づいていなかった。照明を落とし、緑色に暗く輝く光のなかから、影になったマイケルの歌声だけが響いてくる。しばらくしてギターが大きく絡み始め、歌声は力強くなっていく。R.E.M.がすばらしいのは「恐れずに歩け」と言う時にも、何度も逡巡しながら断言するところだ。能天気さとは程遠い。
 名古屋と大阪とどちらのライブの出来がよかったかと言われれば、やはり大阪に軍配が上がる。特にライブの立ち上がりが大阪は完璧だ。"I Took Your Name""Bad Day""So Fast, So Numb"とマイケルのあの低音を存分に聴かせる冒頭の3曲は一分のの隙もない。あっという間に観客をライブ空間に巻き込んでしまっている。
 そう、普通にアルバムで彼の歌声を聴いている限り、彼の声は決して低くはない。だが、ライブで歌う彼の歌声は予想以上に低音の印象を受ける。おそらく彼は自分の声の低音部分の魅力を把握し、意図して使うことで効果を上げている。彼の低音には砂粒のようなノイズが異物として含まれており、そのざらついた触感は語られる言葉以前に音そのものとして抵抗の空間を築き上げる。
 その意味で「オレンジ・クラッシュ」における拡声器の使用はむしろ不要だとさえ言えるかもしれない。確かにマイケルが抵抗者のアジテーションよろしく拡声器を通して歌う姿は文句なくかっこいいのだが、機械的に声の肌理を荒げなくても、彼の声そのものがすでに拡声器を通した声のようにざらついているのだ。
 案の定、とりとめもなく長くなってしまった。最後に大阪公演で観客のリクエストに応えて「ナイト・スウィミング」と「ファインド・ザ・リバー」を演奏してくれて嬉しかったことを書いて、とりあえず筆をおきたい。
 
 セットリストはこちらを参照。