AMBITIOUS LOVERS / GREED

 カエターノ・ヴェローゾ関連でアート・リンゼイもここ数日、聴きかえしている。ライヴでのカエターノによるDNAのカバーはさすがに驚いた。DNAは70年代後半においてニュー・ウェイヴならぬノー・ウェイヴと言われたムーブメントの代表的バンドだが、実のところノー・ウェイヴはウェイヴというような波にはならなかった。突然変異のように現れた異形の一群だ。DNAの曲も通常の音楽感覚では音楽と言えるかどうかさえ怪しい(笑)。さすがにDNAの曲を深夜に聴く気にはなれないので、今はアンビシャス・ラヴァーズを聴いている。
 実は僕にはひたすらアンビシャス・ラヴァーズを聴いていた時期がある。ギターの弾けないギタリスト、アート・リンゼイ(ただし、彼のノイズギターはもちろん単に弾けないのではなく、明確な方法意識に基づいている)と音楽的素養の豊かなピーター・シェラーによるこのユニットの音楽こそアーバン・アヴァン・ポップの完成形のように思えたのだ。そして、その印象はいまでも変わっていない。
 このアルバム『GREED』も何度も何度も聴き倒した。アンビシャス・ラヴァーズの3枚のアルバム(『プリティ・アグリー』を無理やりカウントすれば4枚)のなかで最も好きなのが88年発表のこのセカンドだ。このアルバムほどハイセンスでかっこいい音楽はそうはない。
 アンビシャス・ラヴァーズの音楽はDNA時代とあえて比べるまでもなく、非常に音楽性に溢れている。普通の音楽として聴きながしてしまう人さえいると思う。メロディと言い、リズムと言い、ブラジル音楽からの影響もかなり顕著だ。ただし、後のアート・リンゼイのソロと比べるとやはりニューヨークという場所の印象が強烈であり、当時のニューヨークのアンダーグラウンドシーンとの交流が色濃く影を落としている。そして、その絶妙のブレンドが堪らなくかっこいい。
 一曲目の"COPY ME"から琴線が鷲づかみにされる。徹底的に醒めた音によって絶妙に彫琢された音の構築物。アートが歌う"DO YOU COPY ME ?"のフレーズは何度聴いてもくらくらする。
 ところで、カエターノ・ヴェローゾは"COPY ME"を歌ったことがあるらしい。しかも、この『GREED』が発売される1年も前に*1。アートとカエターノの出会いは83年にまで遡るが(カエターノのニューヨーク公演の際にアートは通訳を担当した)、彼らの出会いはポピュラー音楽史上に残る出来事として決定的に刻まれている。そもそも彼らが出会わなければ、カエターノの『エストランジェイロ』や『シルクラドー』だって生まれはしなかったのだ。
 

Greed

Greed

 

*1:アート・リンゼイ『プライズ』の中原仁によるライナーノーツより