クラウス・ノミ / ザ・コレクション

 クラウス・ノミの作品がすべて、と言っても2作だけだが、再発され、さらには今作のようなベスト・アルバムまで作られるとは、世の中何が起こるのか分からないものだ。今回の空前のノミ・ブーム(かどうかは知らないが:笑)はもちろん映画『ノミ・ソング』の影響だ。この映画を早く見たい!
 もしこの拙文を読んでいる人でまだクラウス・ノミのアルバムを持っていない人がいれば、ぜひ今回再発された2枚のアルバムとこのベストアルバムの購入を薦める。いきなりの出費が気になるのなら、まずはこのベストアルバムを。アルバム未収録曲も2曲入っているため、アルバムを持っている人であっても、このベスト版は買うべし。だが、このベスト版だけでも物足りない。「ライトニング・ストライクス」も「シンプル・マン」も未収録なのだから。
 いや、あれこれ周辺的なことばかり言うのはやめよう。ぜひ聴いてみてほしい。どうしても彼の80年代風のチープなエレポップサウンドに馴染めないという人は、例えばパーセル作曲の作品を聴いてほしい。例えば、このベスト版にも収録されている「デス」

僕を覚えていておくれ! 忘れずにいておくれ!
だけど ああ! 僕の最期は忘れてほしい
覚えていておくれ だけど僕の最期は忘れてほしい
覚えていておくれ 忘れずにいておくれ

 彼のカウンターテナーを存分に堪能できる圧巻のパフォーマンス。聴いている僕らのもとにもゆっくりと死の影が忍び寄る。クールで甘美な、、、陶酔。彼はたった2枚のアルバムだけを残し、1983年に39歳の若さでエイズに倒れた。神に愛されたからだとしか思えない。
 そのことは1曲目を飾る同じくパーセルの「コールド・ソング」を聴けば、誰の目にも明らかなのだ。

お願いだから
再び僕を凍えさせて
お願いだから、僕を死ぬまで凍えさせて
お願いだから
再び僕が死んでしまえるように 凍えさせて

 この美しい願いに誰が逆らえるだろうか。
 とまれ、こうした系列の作品にだけ注目するのはノミの奇妙なキャパシティを過小評価していることになるだろうが、まぁたまにはいいと思う。どうせ今後もずっと聴き続けていくのだから。
 最後に。これでノミの音源は一通り吐き出されてしまったかとは思うが、ノミを理解するには彼のミュージックビデオ集の再発が不可欠だ。ぜひとも再発を希望したい。彼の奇怪なパフォーマンスを見ずに、彼の音楽だけを聴いているというのは、それはそれで不健全なことだ。彼の音楽はやはり80年代、MTVの時代と切り離すことのできないと思う。そして、彼のミュージックビデオをちらっとでも見れば、彼が人類のもとに遣わされた天使だったのだということが一目瞭然だ。彼のようなものが存在したという奇蹟を僕はいつまでもしっかりと記憶にとどめておきたいと願う。
 ノミについては、2005年1月8日のエントリも参照。
 

ザ・コレクション~ベスト・オブ・クラウス・ノミ

ザ・コレクション~ベスト・オブ・クラウス・ノミ