MARCEL KHALIFE / Voyageur

 レバノンの偉大なるミュージシャン、マルセル・ハリーフェの94年のアルバムを棚から引っ張り出して聞いてみる。ぜひ一度は生で聴いてみたいと思うミュージシャンの一人なのだが、とは言え、このアルバムに限らずハリーフェのアルバムを、僕はおそらくここ5年は聴き返していないのではないか…。
 とは言え、久しぶりに聴き返してみると、予想以上にすばらしい。フルオーケストラの曲からアカペラに至るまで楽曲の幅は広いが、歌ものも曲ものも個性豊かな唯一無二の音楽だ。
 曲としてはこのアルバムの3曲目にも収録されているフルオーケストラをハリーフェ自身が歌う「A ma mere(母へ)」が最も有名だろうか。この曲はパレスチナの抵抗詩人マフムード・ダルウィーシュの詩を歌にしている*1。歌詞の意味は分からないが、母への思いを歌う歌は意外に万国共通っぽい感じではあって、「この曲のタイトルを当てろ」と言われたら100人のうち5人ぐらいは「母へ」と当てるのではないだろうか。アラブ風母さんの歌(母さんが夜なべをして…)。音程を震わせ不安定さを醸し出すアラブの旋律の流れは効果的だ。
 リバーヴをかけた女性ボーカルのアカペラによる6曲目「Le retour(帰還)」もすばらしい。美しい歌声がどことなく暗さを湛えながら滑らかに宙を漂う。
 

*1:ダルウィーシュの詩もまともに読むことができない日本の環境は何とかならないものだろうか