三田紀房 / ドラゴン桜

 先日、エントリ前に消してしまったものを簡単に復刻。
 テレビドラマでも人気の受験漫画。物語は、冴えない弁護士が不採算私立高校の事業再生で一発当てようとして、三流高校の落ちこぼれ学生を1年間で東大に合格させよう画策するというもの。彼が次々と繰り出す東大合格のための「意外な」勉強法がなかなか的を得ていて、高校生たちは学力を伸ばしていくのだ。漫画は今のところ9巻までであり、登場人物たちはまだ夏休みの真っ只中。受験まではまだ遠い。
 この漫画の成功要因は大きく以下のふたつ。
 ひとつめ。少し考えれば分かるように、この漫画の基本的な物語構造はタイムリミットもののそれだ。すなわち、登場人物たちは、指定された期限(東大受験日)までに障害(東大合格に必要な学力と落ちこぼれ高校生の学力との落差)を乗り越えることを条件付けられている。そして、期限までに障害を乗り越えるための必殺技、実のところそれが読者の興味を惹く最大の要因となるのだが、これこそが上述のように弁護士たちが繰り出す独自の勉強法にほかならない。そして、この勉強法は読者を驚かせつつ納得させることにそれなりに成功している。この勉強法を真似しようとしている高校生も多いのではないか。
 長くなったが、要するにひとつめのポイントは、タイムリミットものという物語構造を採用するに当たり、「受験というテーマの目新しさ」と、「落ちこぼれ高校生を1年で東大合格に導くという難度の高さ」と、「困難を乗り越える独自の勉強法という必殺技の驚きと納得」をうまく取り入れているということ。
 ふたつめ。ただし、単なる受験技術だけでは絶対におもしろい漫画にはならない。そこに登場人物たちの成長物語が不可欠だ。この漫画では落ちこぼれ高校生たちが受験技術の習得を通して、「学ぶこと」のおもしろさに目覚め、さらには「視野」が広くなり周囲への配慮も覚えていく。高校生たちだけではない。三流高校のやる気のない先生たちも弁護士たちに触発され、変化していく。
 このように、本書のおもしろさは基本的には物語に関するものだ。なので、再読意欲が高まらないところが本書の弱さではある。登場人物の造詣における紋切り型の単調さは気になる。主人公である弁護士が語る人間観や教育観などにおもしろい部分はあるものの、人物造詣の単調さが足を引っ張って、上滑り感がぬぐいきれず説得性が弱い。絵はうまいが、その魅力はと言われるとやはり弱い。などなど。
 と書いたところで、10巻が既に発売されていることに気がついた。読みたい。一応、先は気になるのだ(笑)。

ドラゴン桜(9) (モーニング KC)

ドラゴン桜(9) (モーニング KC)