ピエール=ロラン・エマール @ 東京オペラシティ コンサートホール 2005/12/06/Tue.

 すばらしい! 予想以上に圧巻の熱演。と言うか、エマールのピアノがこれほどまでに力強いとは思わなかった。
 鼻歌と言うか、叫び声を上げながら彼は演奏する。しかし彼は憑依系と言うよりは、自分の指の動きを徹底的にコントロールする、意思的な集中力が跳びぬけたヒアニストではないだろうか。
 彼の演奏は何よりも彼の指の強さに支えられている。華麗さと力強さを併せ持つピアノの鉄人だ。そう、ピアノの鉄人がランニング・ハイで演奏していると言えば、かなり印象が近い。
 強靭な指先がクリアな音を次々とつむぎだし、飛び出してくる音はひとつひとつが圧倒的なきらめきを発しながら四方八方に弾け飛ぶ。
 例えば、1曲目のブーレーズなどは、あれほどの難曲をあっけらかんと演奏してみせる腕前は驚異的だ。アンコールでのブーレーズも迷いのないクリアな音が空を切り裂いていく。現代音楽を聴くことの醍醐味を存分に味わわせてもらえた。
 しかし、やはり最も印象的だったのはドビュッシーだ。ラヴェルの「夜のガスパール」もすばらしいが、メロディよりも音色が強調されるドビュッシーの音楽の方がエマールに向いている。印象派の核心に音そのものの力の開示があることは否応なく伝わってくる。
 
 これで僕の秋のクラシック三昧は終了。あなものがなし。
 
【プログラム】
ブーレーズ ピアノ・ソナタ第1番
ドビュッシー 前奏曲第1巻より
  沈める寺
  野を渡る風
  雪の上の足跡
ラヴェル 夜のガスパール
シューマン 交響的練習曲 op.13
 
アンコール
ドビュッシー 前奏曲第1巻より 亜麻色の髪の乙女
モーツァルト ピアノ・ソナタ第16番 変ニ長調K570より第3楽章
ブーレーズ 4つのノタシオン
ドビュッシー パックの踊り
クルターク 3つのゲーム
ドビュッシー 音と香りが夕べの大気に漂う