クラフトワーク / ミニマム/マキシマム(DVD)

 03年に発売されたクラフトワーク17年ぶりの新作『ツール・ド・フランスサウンドトラック』発売に合わせ、04年から始まったワールド・ツアーを映像化した作品。僕は02年のエレクトラグライド出演に続き、このときのツアーも見ているのだが、ツアーそのものが丸ごと収録されているというだけに留まらず、独立した映像作品としても申し分ない。完璧な仕上がりだ。
 クラフトワークはライヴ映像をほとんど公開してこなかったため、こらまではライヴを隠し撮りした画像の荒いブート・ビデオなどが高価に取引されていたものだった。しかし、彼らのライヴを一度でも見たことがあれば、彼らが映像作品を残さない理由は明白なように思えたはずだ。
 シンプルなデジタルサウンドを展開する彼らの音楽にはライヴとCDとのあいだに本質的な差異はなく、かといって彼らのライヴがクラブミュージック的な高揚感に満ちているわけでもない。クラフトワークの音楽はお世辞にもダンサブルとは言えない。では、ロックバンドのようにライヴで彼らが動き回る生の姿を見て楽しめるかと言えば、基本的に彼らはただステージ上に4人並んで突っ立っているだけであり、黙々と手元の機械を操作し続けている。
 彼らのライヴのおもしろさとは、テクノサウンドと背後のスクリーンに流れるデジタルイメージとの相乗効果に他ならない。そのため、一度、映像が出回ってしまえば、ライヴがそれと差別化することは難しいだろうと思えたのだ。実際のところ、このDVDが発売されてしまった以上、今後の彼らのライヴがどのようなものになるのか非常に気がかりだ。最悪の場合、これをただ延々と反復するだけになりかねないのではないか。つまりは、そう不安にさせるほどに、このDVDの出来栄えは素晴らしいのだ。
 大きく分類して、このDVDは3種類の映像から成っている。
 まずはクラフトワークのメンバーたちが演奏する姿を捉えた映像。いくつかの例外はあるものの、この種類の映像は、ほとんどの場合、ステージ真正面の客席後方からの視点で4人を捉え、ステージ背後の映像とともに彼らの姿を見せていく。もっともライヴDVDらしい映像だと言えるが、通常のライヴDVDとは異なり、カメラは動かない。非常に禁欲的だ。
 次に、ステージ背後の映像そのもの。これは背後のスクリーンに流れる映像を、ライヴのその場で撮影したものではなく、背後の映像それ自体を独自編集してDVDのなかに取り込んでいる。プロモーションビデオみたいな映像と言えば、印象が近いだろうか。
 そして最後に、背後の映像とクラフトワークのメンバーを融合させた映像。これは背後の映像が現実世界を侵食し、クラフトワークのメンバーたちがあたかも電子の世界の住人になったかのような、このDVD用に新たに加工されたものだ。背後のイメージが、ステージ上に演奏する彼らの周りに溢れ出るだけでなく、場合によっては彼ら自身がデジタルなドットへと還元されていく。当然のことだが、現実のライヴにこのような状態は存在し得ない。
 これら3種類の映像がライヴの進展に合わせて効果的に使い分けられていく。このDVDが単なるライヴの収録ではなく、独立した映像作品として構築されていることは明らかだ。「ホーム・コンピューター」などは、1曲全体を通して、ステージ上の4人が荒い解像度に分解されて背後の映像と入り乱れ、音楽とともにデジタルな断片がただひたすら乱舞していくという大胆な構成になっているのだ。
 いや、1曲ごとの細かな解説やクラフトワークのライヴの特徴などを一つ一つ語らないように自戒しておきたい。何より重要なのは、このDVDがクラフトワークの音楽を素材にしたマルチメディア作品として見事な出来栄えであるということだ。そして、矛盾しているようだが、クラフトワークのライヴを見た者ならば、この作品こそ、まさにあの素晴らしいライヴをDVD化した作品だと喝采するはずだ。彼らのDVDとしてこれ以上のものは考えられない。確かに実際のライヴにおける大音量・大画面による迫力や臨場感がないというのは事実だ。それはDVDである以上、仕方がない。だが、ある意味では、このDVDをPCのモニターで見るという、迫力や臨場感などを削ぎ落とした無機的な体験こそが、もっともクラフトワークに相応しい鑑賞方法だとさえ言えるのではないか。
 しかし、だからこそ、繰り返しになるが、この作品を公開してしまった後で、彼らのライヴがどうなるのかということは気になるところだ。このDVDを超えるだけのクオリティを持ったライヴを行うことは果たして可能なのだろうか。どうであれ、来日すればきっと見に行ってしまうのだろうけれど。

ミニマム-マキシマム [DVD]

ミニマム-マキシマム [DVD]