ザ・フォーサイス・カンパニー 2006 Bプログラム@ 彩の国さいたま芸術劇場 2006/03/05/Sun.

 ウィリアム・フォーサイス率いるザ・フォーサイス・カンパニーの来日公演。Aプログラムの"You made me a monster"は都合がつかず、今回はBプログラムのみ。Bプログラムは3作品で構成。
 ひとつめの"Clouds after Cranach"(Part1)。クラナッハの後の雲? タイトルはともあれ、この作品は大勢のダンサーたちが組み手を交わしているかのような作品だ。フォーサイスと言えば高速な動きという印象が強いが、この作品はストップ、スロー、カメラを逆回しにしたような動き等の不自然な動きを、生身の身体でもって群舞として実演してみせる。動きのパターンはいかにもフォーサイス的で、多中心的に螺旋を組み合わせた複雑な動きだ。
 ストップやスロー、逆回しと言っても、それらの動きが必ずしも同期しているわけではない。ほとんどの人が停止しているなかで一人だけ動いていたり、止まっている人とスローな人、逆回し的な動きの人が同時に組み合わさっていたりするなど、無数の時間の流れが同時的に存在している様が生々しく眼前に繰り広げられる。音楽がないだけに、時間の流れをひとつに統御するものがなにもなく、まさに時間の関節が外れてしまったかのようだ。
 ふたつめの"7 to 10 Passages"。ノイジーな音が流れるなか、舞台奥に横一列に並んだダンサーたちはパッと見には気づかないほどにゆっくりと、本当にゆっくりと踊る。一歩もその場を動かずに。舞台脇に手前から奥に向かって縦に並べられた机に向かっている人たちが"You made me a monster!"と何度も叫んでいるので、この作品はAプログラムと関係があるのかもしれない。
 モンスター? そう、ダンサーたちの緩慢な動きはモンスターを表象するかのように奇形的な動きを示す。例えば、肘を歪に曲げながら腕を前に長く突き出し、肩をゆっくりと動かすことで腕全体が不気味に動き続ける。身体の全体的な統御感が失われ、各パーツが別々に独自の意思で動いているかのようだ。そう、端的に言うならば、これはフォーサイス暗黒舞踏だ。
 だが、暗黒舞踏が「自然としての身体」なるものを強く喚起する動きであるとすれば、フォーサイスのダンスは「多知性としての身体」だ。モンスターとはもちろん内なる怪物のことに他ならず、要するに精神分析的なモンスターのことだ。そして、それは知性の産物以外の何ものでもない。ダンサーたちの決して交わることのない視線も精神分析的なモンスターの孤独を際立たせる。この作品は通俗的な意味では、もっともおもしろい。
 みっつめの"One Flat Thing, reproduced"。4×5計20台の机が縦横規則正しく並べられ、ダンサーたちは机のあいだで、場合によっては机に乗ったりもぐったりしながら、激しく踊り続ける。
 う〜ん、この作品はインタラクティヴDVDも発売が予定されていることからも、おそらく力の入った作品なのかもしれないが、率直に言って僕にはおもしろさがよく分からなかった。狭い机のあいだで踊るという動きの制約条件はフォーサイスならではの動きを単純化してしまっているように見える。もっとも激しいダンスなので、確かに盛り上がりはするのだけれど…。
 
The Forsythe Company 2006
http://www.saf.or.jp/performance/geijyutu/05_42.html
ザ・フォーサイス・カンパニー
http://www.theforsythecompany.de/