デイヴィッド・クローネンバーグ / ヒストリー・オブ・バイオレンス

 う〜ん、おもしろい。こちらは同名のコミックが原作。タイトルを誤解してはいけない。これは「暴力事件を起こした過去」という意味。
 冒頭で二人の強盗が暑い暑いと言っている長回しの横移動撮影のまったりとしたシーンは、クローネンバーグにない感触でおもしろかったものの、その暑さが全然伝わってこないところに不安を覚えたのだけれど、その後、主人公が強盗を殺すシーンあたりにまずは感心。クローネンバーグってグチャグチャドロドロをやらなくても、うまいじゃないか。それ以降はぐいぐいと食い入るように見てしまった。
 終わり方も変。全てを終えて家族のもとに帰ってきた男とそれを受け入れる家族。クローズアップの切り返しが連続しつつも、その画面の連鎖が何かを意味づける寸前に映画は終わる。いわゆるオフビートというほどの切断性さえない。主人公のヴィゴ・モーテンセンの妙な存在感の薄さも全体として独特の味わいを残す。要するに、この映画は余計な装飾を次々とそぎ落としていくことによって、非常にシンプルで端正な映画となっている。
 パンフレットを読んでいたら、ヴィゴ・モーテンセンは3人の殺し屋と対決する場面で『真昼の決闘』を思い出したと言っていたが、僕は前半の二人組みの強盗を殺す場面でジョン・ウェインの遺作『ラスト・シューティスト』が思い出されたのだけれど、それはまた別の話。