ニール・ジョーダン / プルートで朝食を

 お奨め。どこに辿り着くのか明らかならぬ主人公の旅は見ているうちに美しいエンディングを迎える(『あなたがいたら / 少女リンダ』のエンディングを思い出した)。ニール・ジョーダンって昔はこけおどしの演出しかできないという印象があったのだけれど、いつの間に…。
 IRA、女装の麗人といったモチーフは『クライング・ゲーム』を思い出させるが、こちらは緊張感は希薄。本作では悲惨な出来事も御伽噺でもあるかのようだ。何しろ冒頭と最後では、コマドリが微笑ましい会話しているのだ。
 ピープ・ショーのマジックミラー越しに主人公と父親が対面するシーンは誰もが『パリ・テキサス』を思い出すだろうが、『プルートに朝食を』においてはヴェンダースの映画のように眼差しと声の綿密な設計に凝ろうとはしない。おそらくニール・ジョーダンは観客の視線をぐっと惹き付けることなどに興味をなくしてしまったのだ。そして、それはこの現在において潔い選択と言えるのではないか。
 ところで、主人公を車で誘い、絞殺しようとする危ない変質者を、なんとブライアン・フェリーが演じている。しかし、彼にはぜひ劇中で歌ってほしかったところだ。もちろん曲は初期ロキシー・ミュージックの耽美な名曲「イン・エブリー・ドリーム・ホーム・ア・ハートエイク」以外にはありえない。どんな夢のような家庭にだって悩みの種はあるものだとつぶやきながら、プールに浮かべたビニール人形だけを溺愛する男の歌。ただし、これはまぁ、贅沢に過ぎるかもしれない。
 
公式サイト
http://www.elephant-picture.jp/pluto/