フレーミング・リップス @ サマーソニック06大阪

 フジの3日目についても書いていないうちに、サマーソニック大阪に2日間行ってきた。取り急ぎ、何よりもフレーミング・リップスについて。
 今回のサマーソニックにおいて最も感動的だったのは、フレーミング・リップスだった。僕はシャーラタンズ終了後に駆けつけたので、最初の10分を見逃したのだけれど、シャーラタンズの会場であったマウンテン・ステージ(次のダフトパンク目当ての客が延々と連なり既に入場規制が掛かっている)を後にすることに、何のためらいもなかった。そして、フレーミング・リップスのライヴはその思いを満たして余りある最高のライヴだった。
 
 既に公演が始まっているソニック・ステージに入場するや否や、目を疑った。
 なんだこれは?
 まずは光。薄暗い会場をステージ上のホワイトライト(何の変哲もない、ごく普通のライト)の明りが白々と照らし出している。観客の上を、数十個もの色とりどりの風船がゆっくりと乱舞し、ステージの上はよく見えない。目を凝らして見てみると、巨大なサンタクロースや宇宙飛行士やエイリアンがステージのバックで踊っている。他にもステージの左右に大勢の宇宙飛行士やサンタクロースが踊っている。ベースのマイケル・アイヴァンスはなんと骸骨姿だ。これはあの素晴らしい最新アルバム『アット・ウォー・ウィズ・ザ・ミスティックス(神秘主義者との交戦)』の2曲目「フリー・ラディカルズ 〜 自由急進主義者達(自爆犯を説き伏せようとするクリスマス骸骨の幻想)」をモチーフにしているのだろうか?
 気づけば、曲は前作から「ヨシミ・バトルズ・ザ・ピンク・ロボッツ」だ。慌てて最前ブロックにまで前進する。
 一番、盛り上がったのは「ヤー・ヤー・ヤーの歌」だろうか。最新アルバムの1曲目。フロントマンのウェイン・コインは観客に「ヤー・ヤー・ヤー・ヤー」を連呼させる練習を何度か繰り返してから、本格的な演奏に入る。最新アルバムはフレーミング・リップス特有の、ドラッグ中毒で奇妙に歪んだポップによる反戦ソング集だが、1曲目「ヤー・ヤー・ヤーの歌」はアルバムのオープニングに相応しい、最高に変で軽やかなポップソングだ。「もしスイッチ一つで世界を吹き飛ばすことができたとしたら、君はそうするかい? もし自分が金持ちになれるように他の人々を貧乏にできるのだとしたら、君はそうするかい?」あっけらかんと権力を相対化する歌詞が続き、コーラス部分は会場中が手を突き上げての大合唱になる。「With All Your Power, With All Your Power, With All Your Power, What Would You Do?」
 
 フレーミング・リップスのライヴはまるで夢を見ているかのようだ。彼らのシンフォニックな音作りもその印象を強化する。
 夢? いや、彼らのライヴを夢に例えるには注意が必要だ。夢のように美しいのではなく、夢のように白々しく人工的なのだ。前述した原色が氾濫する風船、オモチャのような巨大人形、大勢のエキストラ。更には、何度も何度も撃ち出される紙ふぶきや紙テープの祝砲。巨大な両手を持つ骸骨。あぁ、素晴らしき人工の世界!
 目の前で繰り広げられる祝祭は、現実の時間の流れを少し押し留め、ほんのひと時だけを人工的に(ドラッグの力で?)祝祭化させたものであり、そして皆、心のどこかでそのことを感じている。この夢は現実の中に人工的に差し挟まれた夢に他ならない。もう次の瞬間にこの夢は終わる。そういう予感が常に漂っているのだ。だから、フレーミング・リップスのライヴを見ていると、僕らは涙が出そうになる。いつまでも夢を見ていることはできない。
 祝砲は次々と無数の紙ふぶきを打ち上げる。落下してくる紙ふぶきに僕は目を奪われる。その夢のようにゆっくりとした落下が物理法則に従った紙切れに他ならないことは分かっているのだけれど、この白々しいただの紙のどこかに僅かでも夢の残り香が付着しているのではないかと探すかのように、じっと見つめる。人工的な紙ふぶきが床に落ちるにはまだ間がある。終りがくるのはもうすぐ先だけれど、それでもまだもう少し先だ…。
 人工的に仮構された夢に対し、覚醒しつつ陶酔すること。それこそがフレーミング・リップスのライヴ体験に他ならない。半ば覚醒していることから来る終わりの予感。だが、そもそも夢というものはそういうものであったはずだ。
 
 僕はフレーミング・リップスのライヴを見るのは2回目だ。前回は大ヒットした99年のアルバム『ザ・ソフト・ブレティン』のツアーのときで、場所は名古屋クアトロだった。その時は人工的な狂気がライヴを覆っていた。ドラッグで狂いさえすれば、パースペクティヴは混乱し(背後のスクリーン上で無数の虫が蠢く!)、この狂った世の中を生きていくことができる。額から真っ赤な血糊(人工的な血)を流しながら、何事もないかのように一心不乱に美しいバラードを歌い上げるコインの姿が忘れられない。
 
 フレーミング・リップスは変わらない。そして、夢のように美しい、人工的に捩れた彼らのポップソングは、この時代にあってますますリアルだ。
 
 
 以上の内容でとりあえずアップするが、今回のライヴ画像は例えば下記を参照。
 
all mot cons  ⇒ 風船のなかに入って転がるコイン。見たかった!
http://allmodcons.jpn.org/blog/archives/2006/08/06.html
The World on the Beach  ⇒ 画像多数。ダフトパンクもおもしろそうだ。
http://theworldonthebeach.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/814_d2e6.html