佐藤真 / エドワード・サイード OUT OF PLACE

 サイードのドキュメンタリー。彼の死後に撮られたものなので、直接的に本人は出てこない。常に異郷を生きた知識人を、本人不在のまま移動において捉えようとする試み。辿られるのは彼の著作に記された記憶の場所であり、彼の家族・友人たちであり、何よりも現在の中東に生きる人々である。現在の中東に生きる人々というと悲惨な現実というイメージが先行するかもしれないが、登場する人々は明るく、笑顔を浮かべてばかりいるという印象。逆に深刻な表情を浮かべているのは、サイードについて語る知識人ばかりだ。
 映画の最後のほうで、サイードのメモリアル講演会でバレンボイムが登場し、ピアノを弾くシーンがある。場面が変わってもそのシューベルトのセンチメンタルな音楽だけが流れ続ける。だが、サイードの音楽として本当にバレンボイムが相応しいのだろうか。グールドの方が良かったのではないか。映画のなかに登場する主著紹介に『バレンボイム/サイード 音楽と社会』がある一方で、あの素晴らしい『音楽のエラボレーション』が省かれているのは引っかかる。そうそう、映画で何度も登場するサイードの著作の朗読がNHKのようで、あまりに無味乾燥なのは徹底的にダメ。
 
エドワード・サイード OUT OF PLACE』オフィシャル
http://www.cine.co.jp/said/