少女漫画をめぐって

 漫画を中心としたサブカル系雑誌らしい『フリースタイル』vol.2の鼎談「私たちの『少女漫画』」がおもしろい。参加者はやまだないとよしながふみ福田里香。個々の指摘が個人的な賛否はあるものの興味深い。いくつか箇条書き的にピックアップを。
 
 ●よしなが「バレー部とかテニス部の、ふだん漫画を読まない子たちは紡木たくさんに夢中で、私の友だちの少女漫画好きな人は、くらもちさんと吉野朔実さんだったんですよ」
 僕はこの手の女の子の消費実態は全然分からないので、かなり興味深い。ちなみに僕の好みも明らかに後者。ただし、よしながふみくらもちふさこを「職人」だという意味のことを言っているのは納得ができない。「職人」という言葉が褒め言葉として使われていることは承知しているが、僕にとってくらもちふさこは偉大な才能以外の何ものでもない。
 紡木たくの技術はかなり高度な達成だとは思うのだが、それへの異論は長くなるのでまた別の機会に(そんな機会があるかどうか知らないが:笑)。
 
 ●やまだ「男の人って大島弓子、分かりたがるよね」
 これはよく分かる。僕もつねづね不思議に思っていたのだ。彼女に対する評価の高さは、彼女の作品の文学性に求められているような感じがしており、彼女の漫画の漫画性に触れられていないのではないか。率直に言って、僕には大島弓子はさほどおもしろくない。
 
 ●よしなが「コミケみたいのが大きくなっていったときに、…中略…、友だちがやっぱり決定的に少女漫画から離れていっちゃったの、あのときに。女の子の漫画好きの人は少年漫画を読むのが普通になってしまったんですよ。…中略…。大人の男の人と、少女漫画が好きだっていう一部の女の人しか読まないものになってしまった。いまもそうですよね。いまの若い子たちって、みんな『ジャンプ』を読んでて、いま少女漫画っていうけど、少女は読んでないのじゃないかって思う」
 この指摘が一番おもしろかった。言われてみるとそうかもしれないと思う。「いま、バカ売れしてて、ふつうの少女漫画っていうと、『NANA』(矢沢あい)とか『ハチクロ』とか『のだめカンタービレ』(二ノ宮智子)とか」(よしなが)だが、「でも、それも読んでるのは大人」(福田)だという指摘も説得力がある。要するに、少女漫画というジャンルが少女を捕まえられなくなっているということ。
 ちなみに、2004年10月11日で触れたことがあるが、僕は『ハチクロ』はダメ。『NANA』と『のだめ』は未読。このふたつは読んでみるかな。
 
 ●福田「岡崎さんはあれだけいろんな女の子を描いているんだけど、オタクの子はつねにブスで、デブで、性格も最悪。ステレオタイプなんですよ。岡崎さんはすごく憎んでるの。オタク・フォビアみたいな感じで」
 これもよく分かる。僕も岡崎京子のオタク表現の平凡さは気になっていた。彼女が描くオタクは、ほとんど『踊る大走査線』に頻繁に出てくる犯罪者のオタクと同レベルの表現にすぎない。一時期、オタク系とサブカル系に二分される傾向があったが、岡崎京子は明らかにサブカル系であり、自ら積極的にそちらに位置づけられようとさえしていたように見える。

フリースタイル (Vol.2)特集:私たちの『少女漫画』

フリースタイル (Vol.2)特集:私たちの『少女漫画』

 
フリースタイル社
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よしながふみ/ 大奥 第一巻

 よしながふみがなんと大奥に挑戦。しかも謎の奇病のために男子の数が激減した架空の江戸時代が舞台。貴重な男性を大切にし、家をついで働くのは女性のほう。そのため、将軍は女性。そして、大奥にいるのは美男ばかり三千人という驚くべき設定だ。よしなが流SF版大奥。
 本作はかなりの問題作だ。初めはよしながふみのことなので、大奥内でのホモセクシュアルな関係がクローズアップされているかと思っていたのだが、話はそのようには進まない。徳川吉宗(もちろん女性)が八代目将軍になることで、彼女は大奥に大鉈が振るっていくのだが、物語は制度への疑問へと進んでいく。なぜこの国には女性と男性の数が不均衡なのか、そして、表向きの文書だけを見ればこの国にいるのが男性ばかりに見えるのはなぜか(女性が家業を継ぐときには男名を名乗るのだ)…。第一巻の最後は、吉宗が、大奥を作った春日局が女性だった、そして三代目将軍家光は男性だったという「衝撃の真実」を知るところで終わっている。
 萩尾望都の『マージナル』のような傑作SFになるのではないことを期待したい。

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

 

小池和夫(作)池上遼一(画) / 赤い鳩 第1〜3巻

 幕末を舞台に、元新撰組隊士の馬庭実行がオランダ人宣教師等とともに、日本人の祖先が果たして古代ユダヤ人なのかどうかを突き止めようと旅をしていく伝奇漫画。そこに146年後のハルマゲドンにおける日本とイスラエルの連合を阻もうと、北の国や南の国から送り込まれてくる刺客との戦いが物語に組み込まれていく。
 日本書紀旧約聖書の類似性、ヘブライ語と日本語の類似性を次々と出してくるなど、なかなかおもしろい。もちろん僕はそれらに詳しくないので、真偽のほどは確かめてはいないのだ。漫画で言うならば、中上健二原作の漫画『南回帰線』の荒唐無稽さに近いと言えるが、あるいは半村良偽史もの伝奇小説の影響が強いのではないか。僕はこの手の話が嫌いではない。

赤い鳩 第1巻―アピル (キングシリーズ)

赤い鳩 第1巻―アピル (キングシリーズ)

赤い鳩 第2巻―アピル (キングシリーズ)

赤い鳩 第2巻―アピル (キングシリーズ)

赤い鳩 第3巻―アピル (キングシリーズ)

赤い鳩 第3巻―アピル (キングシリーズ)