『吉野家の経済学』安部修仁・伊藤元重(日経ビジネス文庫)

マクドナルドの新しいCOOと同様、アルバイトから社長にまで上り詰めた吉野家社長の安部に対し、経済学者の伊藤がインタビューした本。2年前に出た本なので今更の感もあるのだが、いま読んでみてもとてもおもしろい。
なんと言っても読みどころは、牛丼並盛280円を可能にするだけの仕組みをいかにして構築してきたのかを明快に説明しているところだ。それはチェーン・オペレーションの可能性の追求でもある。400円で売っていたものを280円にすることの裏側にどれだけの苦労があるのか。その苦労は単なるローコスト化だけでなく、増加する客への対応から物流の再構築に至るまでさまざまな領域に渡る。
本書を読んでみて改めて思ったのはマニュアルの重要性だ。マニュアルの弊害を言い募るのは簡単な話だが、チェーン・オペレーションで最大の効果を実現するための手段として、我々はマニュアル以上の手段を手に入れていない。実際、「吉野家の店」としての最低限のクオリティを確保するために、そして名人のコツを水平展開していくために組み立てられた吉野家のマニュアルの完成度は驚異的であり、炊飯のタイミングや肉盛りの姿勢に至るまでの細かいノウハウの蓄積を読んでいて感じるのは、マニュアルの貧しさではなく豊かさだ。
ちょうど自分が勤める会社でもマニュアル的なものが必要なのではないかと考えていたこともあり、業種は違えど非常に参考になる部分が多かった。久しぶりに吉牛に食べに行こうかな。