ブックオフ探検隊『ブックオフ 情熱のマネジメント』(日経BP)

タイトルのとおりブックオフの研究本。「ブックオフ探検隊」とは、社会人向けビジネススクールであるグロービス・マネジメント・スクールの学生たちで構成されており、もともとはスクールのクラスの最終課題レポートのために研究を始めたのだとか。「"学生"とはいえメンバーは三十代が中心。金融、メーカー、教育等の現役のビジネスパーソンによる異色の集団」である。
一読しての印象。おもしろい指摘もあるものの、全体的にはやはり"学生"のレポート。まず文章や構成が下手で読みにくい。分析も弱い。読者を想定した配慮も弱い。
例えば、プロローグで書かれている「やまびこ」「ダッシュ」「出し切り」すべてを一所懸命やれば売上がなぜ上がるのかという疑問については、最後まで明確な回答は与えられない。
あるいは、第5章で唐突に探検隊メンバー同士の電子メールでの議論が掲載されているが、何の意味があるのか理解できない。おそらくは"学生"のナルシシズムなのだろうとは思う。しかし、一方、その電子メールの部分の直後に触れられているアドバイザリーボードの場*1に関する部分では、探検隊に対して語られた坂本社長の言葉だけが記載され、それに対して探検隊のメンバーがどういう発言をしたのかについては書かれない。ここには何らかの意図があるのだろうか。
いくつも列挙しても仕方ないが、単に文章レベルで言っても、主語と述語が対応していない文章や、主語等が省略されているために意味がよく分からなくなっている文章などが散見される。
だが、こうしたこと以上に重要に思われるのは、結局のところAppendixを除けば、暗黙知の占める割合が高く、その知を外部の言葉で語られることに対して強い抵抗感を示す(ように見える)ブックオフという組織の可能性について、ブックオフ外部の言葉で説明しようとしていないように見える点だ。だが、このことの評価については異論のあるところだとは思う。Appendixのような分析こそが余計だと思う読者もいるであろうからだ。では、あくまでもブックオフ内部の視点に留まって、外部の人たちに分かりやすく伝えようとしているだろうか。実のところこれも怪しい。外部的な視点で分析しようとしたにもかかわらず、ブックオフ内部の強烈な個性に引きづられ、結局のところ分析が中途半端なものになってしまったというところなのではないか。つまりは、坂本社長の「あれこれ外野からモノを言うだけのブックオフ探検隊はもういらねえよ」という言葉に対抗できるだけの外部の言葉が、この本に欠けているのではないか。
確かにブックオフという風変わりな組織についてのおもしろい指摘がいくつもあるのだから、その部分を取り上げて評価しても構わないかもしれない。だが、やはり商品としてはいかがなものかなと思う。グロービスはMBAシリーズを筆頭に非常にクオリティの高いビジネス書を出版しているのだから、高い品質要求に応えて欲しいところ。

*1:ブックオフ経営陣と探検隊メンバーとがブックオフの経営についてディスカッションする場のこと