いま聴いている音楽 Dulce Pontes

ドゥルス・ポンテス / プリメイロ・カント
ポルトガルの新世代ファドの歌姫による1999年のアルバム。これ以前のドゥルスの作品はたいして好きではない。世界的に大ヒットした「ラグリマス」ですら、ただのウェルメイドなポップス以上のものではないと思う。
だが、このアルバムはすばらしい。ファドから距離を置き、ポルトガルの伝統音楽への傾斜を強めており、メロディも新鮮だ。こんな変化を遂げるとは想像すらできなかった。このアルバムを聴くや、彼女のファンになってしまった。
バックの演奏は控えめに留めており、メロディラインは彼女の声が前面に立って紡ぎだしている。そのメロディはトライバルな伝統を取り込むことによって、繊細で豊かだ。だが、決して奇をてらったメロディではない。むしろ非常にキャッチーで聴きやすい。だが、聴きやすいにも関わらず、聴いていてメロディの先が読みづらい。これはかなりのものだと思う。先が読める音楽は皆が知っている既存のフォーマットをなぞっているだけにすぎない。
自由闊達で変幻自在なボーカルもお見事。アルバムコンセプトである「火水風土」を見事に歌い上げ、スピリチュアルな想像力を飛翔させている。1曲目の「戦士の魂(火)」もすばらしいが、歌詞がなく叫んでいるだけの、声がまさに波そのものであるかような最後の「どこまでも波(水)」も圧巻だ。
4曲目のアルバムタイトルにもなっている「プリメイロ・カント」はジョゼ・アフォンソに捧げられている。ジョゼ・アフォンソはポルトガルの伝説的なミュージシャンであり、彼の音楽はポルトガルを無血革命へと導き、軍事政権を倒壊させた。残念ながら彼のCDはいまの日本では入手困難だと思うが、ポルトガルの人々にとっては精神的支柱となっているほど有名。ドゥルスはその精神を引き継ごうとしており、頼もしい。
ドゥルスは2000年に来日し、文化村でコンサートもおこなっている。日本語で「春よ、こい」を歌っていたことが印象的だった。