いま聴いている音楽 Robert Wyatt

ロバート・ワイアット / ヒズ・グレイテスト・ミッシーズ
という訳で、フォークランド紛争反戦歌であるロバート・ワイアットの「シップビルディング」。これは強烈な印象を残す忘れ難い名曲のひとつだ。クライヴ・ランガーの曲にエルヴィス・コステロが歌詞をつけているのだが、このコステロの歌詞もすばらしい。
戦争が起きれば、造船が盛んになり、職にありつくことができる。家族にプレゼントだってできる。だが、作られるのは要するに軍艦であり、造船の結果、人が死ぬことになる。そう指摘したら殴られてしまった人もいたらしい…。こうしたすべてが街の噂として語られるのだ。みんな良い人のつもりなのに、わが身を守るためにじっと身を潜めている。閉塞した時代の不穏感。

電報や絵葉書で広がっている街の噂にすぎないけど、
もうすぐ造船所が再開され、
遺族への通知も届き始めるんだって
またか
我々にできるのは造船だけだろうか

ワイアットは彼特有の高いキーによる不安定さを湛えた声で、淡々と歌っていく。そのなかから立ち現れてくる複雑な心境。不安感。単なる威勢の良い戦争反対ソングではない。だが、このような複雑さのなかからこそ戦争に抗う論理を立ち上げていくことが必要なのだ。
この曲はワイアット以外にも、エルヴィス・コステロ自身も歌っている。また、スウェードもカバーしている*1

*1:コステロのものは彼のベストアルバムに、スウェードのものはボスニア戦争のチャリティアルバム『ヘルプ』に収録されている。