柴崎友香 / フルタイムライフ

 この小説を読んで、柴崎友香の作品をこれまで読んでこなかったことの不明を恥じた。彼女はなかなかの才能の持ち主だと思う。丁寧に紡ぎあげられた文章は読みやすくも安易に内容を伝達するだけではなく、文章を読むことそのものの方に誘いかけてくる。
 タイトルはパートタイムではなく、フルタイムの社員として働いている生活という意味。主人公は食品の包装をする機械を製造する会社に勤めるOL。その新入社員の1年間のうち5月から2月までの生活が描かれていくなかで、主人公はほんの少しだけ成長することになる。
 仕事に満足しているわけでもないが嫌という訳でもない主人公の、漠然とした気分のうつろいが文章の持続を支える柱になっているのだが、その気分の変化をもたらす出来事の描写が何と言ってもすばらしい。具体的に挙げていくと長くなるので詳しくは書かない。実際、取り上げられる個々のエピソードもおもしろいのだ。これも長くなりそうなので書かない。
 ところで、冒頭のほうに出てくる夏のロックフェス好きの社員の話は非常に微笑ましい(笑)。「フジロックは絶対行って、あとひとつは行くつもり」などと、二ヶ月以上先のことなのに気合が入っているのだが、そう、こういう人はいるのだ。会社のなかでもほとんど見かけないがいるのだ(笑)。
 

フルタイムライフ

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