東渕則之 / 建設会社でも二ケタ成長はできる!

 構造不況業種といわれる建設業において過去十数年にわたって二ケタ成長を続ける脅威の企業が愛媛県に存在している。本書はその企業ジョー・コーポレーションの躍進の理由を平易に解説した本だ。内容は、社長、経営理念・ビジョン、ビジネスモデル、システム化・型決め、行動環境の5つに沿って解説がなされており、記述も非常に平易だ。
 興味深い点はいろいろとあるが、最もおもしろかったのは「システム化・型決め」と「行動環境」に関する部分だ。よくトヨタの「カイゼン」について、「トヨタカイゼンがどういうものなのかは分かるが、どうすれば『カイゼン』を根付かせることができるのか分からない」と言われる。ある意味で、ジョーはこのカイゼンマインドを見事に植えつけた事例として多くの企業にとって参考になると思う。その鍵となるのは、もちろん社長や経営理念・ビジョンなども大きいのだが、仕組み面でシステム化・型決めと行動環境が大きな影響を及ぼしている。
 「システム化・型決め」というのは、要するに標準的な作業手順の明確化のこと。基本的には他企業も含め、最もうまくやっている仕事のやり方(ベスト・プラクティス)を手本にして作りあげられている。例えば、顧客情報の収集の機会として、「営業に始まり、設計・仕様の打ち合わせ、建築中の連絡、さらに建物完成後の定期訪問等、お客様との多様なコミュニケーションの機会」が手順として決められており、もちろんそこから得られた情報はCRMシステムで一元管理されている。
 顧客情報の収集など当たり前のように思えるかもしれないが、漠然と「顧客満足が重要だ」というだけの企業とこうした手順を明確化している企業とではパフォーマンスが全く異なるはずだ。事実、ジョーではこうした手順の遵守を超えて、社員が自発的にお客様のことを考えて行動する社員がたくさんいるらしい。例えば、賃貸マンションの入居者から水道が壊れたから修理してほしいという連絡が夜遅く入り、すぐさま駆けつけると特殊な部材が必要なために取り寄せに時間がかかるため、修理完了まで1日かかること分かり、その説明とお詫びをして帰った後のこと。その担当者はコンビニで1.8リットル入りの水を5〜6本購入し、すぐさまそのお宅を再訪問し、再度のお詫びと同時に水を置いていったのだとか。こうしたことが会社からの支持ではなく、すべて自発的に行われているのだ。
 「行動環境」もおもしろい。この言葉は会社の文化や雰囲気を意味し、「学習と成長」をその核としている。ジョーではなんと就業時間の2割に当たる時間を学習や研修に費やしているらしい。そして、他社からスカウトに来るほどの能力を持つように薦めているのだとか。
 具体的には、月に一冊以上の読書と読書感想文の提出(管理職は月さ二冊以上。社長自身は年間140冊以上読んでいるらしい)、月一本のビデオセミナーの受講とそのレポート提出、各種専門研修の受講とそのレポート提出(特に部課長研修は月一回、土曜日に丸一日かけて部課長全員を本社に集めて研修を実施)、社長以下経営幹部からのレポート配信(内容は社長などの読書感想文であり、これはジョーのホームページ上で一般にも公開されている)、社長以下役員が主催する少人数選抜方式の塾などなど、社員に対して非常に豊富な学習機会を提供している。
 これらはジョーが従来型の法人やお役所を相手にした事業を捨て、個人を相手にした事業を展開していくなかで、従来型の応待ではとても対応できないという現実に直面し、「『応待』自体が商品だ」と考えるに至ったことが背景にある。しかし、個々の社員の能力を向上させること以外に企業を成長させる方法はないという認識を持ったとしても、これだけの学習機会を提供できる企業はなかなか存在しない。もちろん社長や経営幹部層がこれほど学習している企業もなかなか存在しない。社員に学習しろと言うだけの企業ならたくさんあるだろうが。
 
株式会社ジョー・コーポレーション
http://www.jowcorp.jp/&e=9707
 

建設会社でも二ケタ成長はできる!

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