V.A. / NO ALTERNATIVE

 『ノー・オルタナティヴ』と言いながらも、参加ミュージシャンはマシュー・スウィートバッファロー・トム、ソウル・アサイラムペイヴメントなど、オルタナ系ミュージシャン勢ぞろいといった感のあるアルバムだ。93年にエイズ・チャリティのために作られた。ジャケットの写真には少女バージョンと少年バージョンがあったが、僕は少女バージョンで持っている。
 最も印象的なのは何と言っても最後にシークレット・トラックとして収録されているニルヴァーナの曲だ。この曲はノン・クレジットだが一般的には「ヴァース・コーラス・ヴァース」という名で知られている。混乱した歌詞がグランジなギターサウンドと交じり合うことで、不安定な精神が見事に描き出されていく名曲*1
 サラ・マクラクランの「ホールド・オン」も忘れがたい。サラはあくまで淡々と歌いながらも裏声と表声(?)が微妙なあわいのなかで溶け合う繊細極まりない歌声によって、聴いているものの琴線を震わせる。
 他にも、パティ・スミスがアカペラで歌う圧巻のロバート・メイプルソープ追悼曲「メモリアル・トリビュート」*2や精神が崩壊する寸前ギリギリの叫びのようなブリーダーズによる「アイリス」など忘れがたい曲が多数収録されており、見事なオムニバス・アルバムとなっている。ロックファンに対しては大推薦盤。
 

No Alternative

No Alternative

 

*1:このタイトルの由来は知らないが、晩年のカート・コバーンは自らが拡大解釈してみせたこのロックの標準的な形式「ヴァース(前奏)があり、コーラス(サビ)がある」を嫌悪していたことが知られている。また、ニルヴァーナ最後のスタジオ録音アルバムとなった『イン・ユーテロ』のタイトル候補としても挙がっていた言葉だ。ただし、この曲はアルバム未収録だ(『ニルヴァーナ・ボックス』には収録)。

*2:パティ・スミスは一時、メイプルソープと同棲していた。