フジロック・フェスティバル'05二日目 2005/07/30/Sat.

 二日目で印象的だったのは、サンボマスター、エイジアン・ダブ・ファウンデーション、ギャング・オブ・フォー、ダイナソーJrだ。
 
 サンボマスターは想像通りの出来栄えだった。会場は熱く、始まってから終わるまで、ボーカルの山口がしゃべりまくり、盛り上げまくりではあるのだが、要するにまぁ観客に対してひたすら説教している。その意味では、以前にエンケンと比較してみたが、むしろ泉谷しげるなどと近しいのかもしれない(泉谷しげるのライヴは見たことがないので知らないが)。
 山口の言葉のインフレーションはどんどんと極まり、最後には「今日のステージは伝説になると思いませんか」とまで行き着く。僕はこの手の言葉のインフレ傾向が苦手だ。もまいら、もっともちつけ(笑)。実際、インフレにともなう言葉の価値下落を補填するために次々と大げさな言葉が空疎に繰り出され続けるのと相まって、ライブにおいては、彼らの音楽の疾走感に比較して、歌詞のどんくささが一層際立ってしまってはいないだろうか。結果として、全体的には非常にウェットなライヴ。だが、彼らにはぜひ音楽の疾走感の方へ向かってほしい。
 
 エイジアン・ダブ・ファウンデーションは例によって最高だ。この日、最も踊らされたのがこのADFだったが、彼らにはやはり野外こそが合うのではないか。アメリカの軍事戦略の失敗を歌う1曲目「ブロウ・バック」、イラク戦争の現実を批判する2曲目「タンク」、ADFの力強い闘争宣言である3曲目「ライズ・トゥ・ザ・チャレンジ」と続き、一気に会場はヒートする。フジロック最大収容のグリーン・ステージにおいて、これほどポリティカルな歌でもって、大勢の観客が踊りまくっている光景は不思議ではあるものの爽快だ(超満員というわけではないが、3万人以上はいたのではないか)。だが、強烈な高速ドラムンベースに合わせてあれら強力なMCたちがライムを矢継ぎ早に繰り出すのだから、盛り上がるに決まっている。それだけではない。ゲリラのようなマスクをして登場する、「サノバビッチ」ならぬ「サノバブッシュ」を連発するなど、政治性を打ち出しながらも見事なエンターテイナーぶりを発揮しているのだ*1
 「エネミー・オブ・エネミー」「オイル」「フライ・オーヴァー」などなどどれも盛り上げまくりの曲だが、クライマックスはやはり最後の2曲「ナクサライト」と「フォートレス・ヨーロッパ」だろうか。
 前者「ナクサライト」はご存知初期ADFの決定的な代表曲だ。政治的前衛性(ナキサライトとはインドで武力闘争を続けるマオイスト系過激派)と音楽的前衛性(ダブ+ドラムンベース+民俗音楽+ロック+HipHop)を見事に両立させたこの曲はまさに傑作であり、この曲をきっかけにADFが大ブレイクを果たしたことはまだ記憶に新しい。抑圧されている悲惨な現状描写&しぶとい抵抗宣言を高らかに歌うこの曲の間奏の際につぶやかれる「未来のダブゾーンへと飛び込め」という音楽的なフレーズ。そう、ADFがすばらしいのはやはり音楽的な前衛性を決して捨てず、「未来のダブゾーン」に向けて新たな一手を繰り出そうと努力し続けているからだ。ただしインド風のテクノ旋律が印象的なこの曲は、正直言って脱退した以前のMCであるマスターDの高音の方があっていたとは思う。いまのダブルMCは声が低く、少しもったりした印象を与えてしまっていることは否めない。
 後者の「フォートレス・ヨーロッパ」はSF的なシチュエーションでもって未来のヨーロッパを描き、ヨーロッパの現在を批判してみせる。「要塞ヨーロッパの壁を叩き続けろ」と「これが21世紀のエキソダスだ」というフレーズが印象的ないかにもADFらしい曲。そして、最高に盛り上げまくり、観客を汗だくにさせながらADFの公演は終わる。特に前のほうのライブピットはかなりすごいことになっていた(笑)。
 
 書きつかれてきた。以下は簡単に。
 
 この日最高のライブは文句なしにギャング・オブ・フォーだ。何よりも音の切れ味の鋭さが衝撃的であり、かなり危険なサウンドなのだ。正直言って、そのサウンドの強烈さは彼らの次のダイナソーJrが見劣りしてしまうほどだ。ダイナソーのようなグランジ・バンドの濁ったようなギターサウンドが音の豊穣さと結びつく、少なくとも結びつきやすいのに対し、ギャング・オブ・フォーの刺々しいサウンドは余計なものを徹底的にそぎ落として骨組みだけになったようなサウンドであり、その意味で徹底的に貧しい。そして、観客に向けて突きつけてくるその研ぎ澄まされた音の切っ先からどうしても目が離せないのだ。
 演奏は「ダメージド・グッズ」「ナチュラルズ・ノット・イン・イット」「エーテル」「リターン・ザ・ギフト」「アイ・ファウンド・ザット・エッセンス・レア」など、彼らの1st、ロック史に輝く名盤『エンターテイメント』からの曲が多かったが、ま、これは当然。
 いい歳しているのに、アンディ・ギルはギターをステージに叩きつけてものすごいノイズを発生させるは、ボーカルのジョン・キングは金属バットで電子レンジを殴りつけながらメタリックなリズムを刻むはで(もちろん最後は破壊)、依然としてかなりいい感じに青い(笑)。だが、全般的に破壊衝動的な感覚はむしろ希薄だ。言わば、すべてが知的に構成されているような感覚であって、まさにポストパンクの真骨頂だと言える。
 
 さて、ダイナソーJr。確かに想像以上の出来栄えだった。淡々とした表情のJマスシスによる、圧倒的音量のグランジ・ギター&やる気なしボーカル。いや、ボーカルについてはルー・バロウの方が見事に期待に応えてくれたと言えるだろうか。ライヴはまさに彼の叫び声で開始されたのだ。印象としては、意外にシンプルなハードロックという感じではあったが、確かにこういうのを時々無性に聞きたくなるのだ。そして、この音を必要とする人は確実に多い。ただし、今回の選曲は初期にばかり偏りすぎていたのではないか。これについては想定済みだった人も多いようだけれど。
 
 その他、この日はエディ・リーダー(よろし)、ドレスデン・ドールズ(ボーカルの女性は声の低域ばかりを無理して出しているのではないか。もっと力を抜けばいいのに。全体として漂うドイツ表現主義サイレント映画のような雰囲気などそれなりにおもしろくはあるのだが、いまのままではキッチュなマイナーバンドとして終わってしまいそうだ)、ブラック・ベルベッツ(まったくダメ)、プラクシス(最高)、ファットボーイ・スリム(あえて単純なアゲアゲを避け、まったりと長丁場をやり通そうとしていた。つまりは一瞬の享楽や忘我状態などではなく、ニコちゃんマークのような持続的な幸福感こそを作り出そうとしていたのであろうが、それが観客のニーズとマッチしていなかったところが彼の不幸。観客はやはり単純なアゲ系サウンド以外のものを求めてはいない。だが、僕はこの手のアプローチが決して嫌いではない。っていうか、FBSを少し見直したのだ)を見た。
 
 短くしようと努力しても、どうしても長くなってしまう。最終日の感想こそは短めに。
 

*1:念のために言わずもがなの説明をするならば、「サノバビッチ」とは"Son of a bitch!"で、要するに「あばずれの息子」。ここから一般的に「くそったれ」というような意味になる。「サノバブッシュ」も「くそったれ」という意味は同じだろうが、「ブッシュの息子」という言葉でそれを意味している。