サマーソニック05大阪 二日目 2005/08/14/Sun.

二日目の感想もざっと行ってみよう。
 
●ルースター
 会場の後ろのほうでちらっとしか聴いていないが、あまり興味なし。大音量で聴けば違うかもしれないが、昨日のオアシスと同じオープン・エア・スタジアムの後ろのほうでは音量が子守唄のように小さい。
 
●HAL (全部見た)
 僕は最近のよりロックなhalよりも、思春期の女性のメランコリーを見事にすくい上げていたアルバム『二十歳のころ』の頃の方が好きだな、などと思いながら開演を待っていたら、いきなり間違い。日本の女性ミュージシャンhalではなく、外国のバンドHALでした。しかし、これが嬉しい誤算で、HALはなかなかの掘り出しもの。例えるならばザ・ジェイホークスみたいなバンドなのだ! しかもマーク・オルソンが脱退する前の、マークとゲイリー・ルーリスによるツイン・ボーカルのハーモニーが美しかった時代の!
 ザ・ジェイホークスはウィルコやソウル・アサイラムなどと並び、オルタナ・カントリー・ロック界の代表的バンドだ。楽曲の完成度の高さもあって特にミュージシャンたちのあいだで評判が高かったことでも知られている。そして、数年前のマークの脱退を経由し、残念ながら今年の初めぐらいに20年の活動に終止符を打ってしまった。マークは妻のヴィクトリア・ウィリアムスと音楽活動を続けているし、ゲイリーはディクシー・チックスとの共作などを行っている。
 もちろん実際にはアイルランドのバンドであるHALはザ・ジェイホークスの影響など受けていないだろう。だが、彼らの遺伝子を受け継ぐかのようなバンドを発見できて、この日はいきなり感無量。彼らの音楽は、ちらっと聴くだけでは、あるいはもはや時代遅れの田舎くさいメロディに聴こえるかもしれない。だが、このような美しいメロディには普遍性があるのだ。ぜひ大成してほしい。もちろんアルバムは買いたいと思うが、その前にザ・ジェイホークスのアルバムを引っ張り出し、久々に聴きたい。
 
●TV・オン・ザ・レディオ
 これが本日最大の掘り出し物。黒人と白人の混成ロック・バンド。ポスト・パンク的な要素も強いが、音はぜんぜんスカスカではない。それどころか、強烈なドラムに爆音ベースのリズム隊((ボイス・パーカッションもある)が最高で、全体としてノイジーな音のなかで黒人ボーカルが熱唱する。彼らは今後、大きく伸びるのではないか。非常に僕好みの音楽。こういうバンドに出会えるからフェスはやめられない。
 
●ジ・アーケイド・ファイア
 ドラム、ベース、ギター、キーボードなどに加え、弦楽器やアコーディオンなども混じっている大所帯バンド。多くの楽器がいっせいに鳴り響き、ボーカルも複数で力強く合唱するので、演奏はひたすらゴスペル的とも言える躁状態がひたすら続く。楽曲ごとにどういうわけかみんなが演奏する楽器を交代するので、マルチプレーヤーばかりだということは分かるのだが、その効果の程はよく分からない。しかし、前評判で聞いたとおり、これは非常に楽しい。が、この手の躁状態バンドは個人的にはすぐに飽きるのだ。
 
●インターポール
 ちらっと見ただけ。ギターをシャープに刻みながら、淡々とした無機的なボーカルが歌う。たぶん僕は好みだとは思うのだが、1曲も聴かずに退散。次のM.I.A.で入場規制が掛かるのが怖かったのだ(入場規制どころか楽勝だったけれど)。
 
M.I.A. (全部見た)
 インターポールをそこそこに駆けつけたM.I.A.。2階にはTV・オン・ザ・レディオのメンバーも見に来ていた。この点でもTV…の連中に好印象(笑)。実のところ、本日の公演のなかでは、トリを飾るナイン・インチ・ネイルズの次に楽しみにしていたのがこのM.I.A.なのだ。
 簡単に基本情報から。M.I.A.スリランカ人女性マヤ・アルプラガサムのソロユニット。M.I.A.は"Missing in Action"の略語であり、「戦闘中行方不明兵士」のこと。彼女の父親はなんと結成当時からの「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)のメンバーだ*1。マヤは11歳のときに行方不明の父を残して、家族とともに戦火を逃れイギリスに移住。10代をイギリスで暮らす。01年にエラスティカやピーチズとの出会いがあって20代後半にして音楽制作に目覚め、現在に至っている。要するに彼女が音楽を作り始めてからまだ3〜4年しか経っていないのだ。
 DJがレコードをまわし始めや否や、いきなりステージ上のモニターにブッシュとブレアの画像が現れ、ビジュアル的にスクラッチされていく。会場がいっきにヒートするなかで、我らがM.I.A.が登場。もう一人の黒人女性ボーカルをサポートに従えてのツイン・ボーカル構成。画像はアニメーションCGで戦車や戦闘機など、戦争をイメージした画像がひたすらループされる。そのうえで、M.I.A.が強烈なボーカルを叩きつけてくる。
 テクノ/ダンス・ミュージックは無国籍的なリズム・サウンド、要するに近代的なテクノロジーの感触が前面に出てくるために、良くも悪くも無国籍的な空間に包まれるような感覚が付きまとうのだが(もちろん、実際にはそれこそ西洋的な空間だ)、M.I.A.の場合、異国的な感覚がどうしてもぬぐいきれない。もちろんマヤの東洋風の容姿もそうだが、それ以上に楽曲のある種の「洗練されなさ」がそのような印象を与えている。平たく言えば、楽曲の泥臭さと言えるだろうか。複雑なリズム・トラック、おもちゃの楽器のようなチープな音、メロディラインの不思議な単調さ(子供が作ったような?)、政治的なメッセージ、決して上手いとはいえないボーカル(特にフレーズの最後で彼女は声を裏返す、いわゆるキンキン声を多用することによって、まったりと聞き流すことを許さない。楽曲に陶酔することも拒否する)…。これは悪口ではない。洗練から距離を取り、手作業的なプリミティブ・チューンを他でもないテクノの領域において展開することで、これほど新しく聴こえるとは思わなかった。ただし、このアプローチはなかなか一般化は難しいと思う。要するに、他のミュージシャンが真似しても、たぶん失敗するだろうということ。
 今回の公演はもちろん1stアルバム『ARULA』からの曲ばかりだが、「貧しい人を立ち上がらせよ。私は闘士だ」と歌う"Pull Up The People"、"Bucky Done Gun"「成長しながら、熟成しながら、ゲリラは叩き上げられる」と歌う"Fire Fire"など盛り上がりまくりの小1時間。もっとも盛り上がったのは"Galang"だと思うが、前から気になっていたのだが"Galang"ってどういう意味なのだろうか。"gang + language"の合成語? "go along"の訛り?
 ちなみに、M.I.A.の基本フィロソフィは「グローバリゼーションを受け入れて“世界市民”というアイデンティティをまとうこと」だとのこと。この認識の潔さはさすがにグローバリゼーションの申し子。単なる反グローバリゼーションに陥る罠をするりと潜り抜けている。もちろん、問題はこの先にあるのだ。
 
M.I.A.公式サイト
http://www.mia-net.jp/
 
●ディープ・パープル (全部見た)
 ご存知、ゴッド・オブ・ハード・ロック。ただし、彼らの様式美は美しくはあるものの、もはやきれいなだけの骨董品を眺めるようなもので、まったく心が動かされない。「ハイウェイ・スター」を聴いても、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を聴いても、「ブラック・ナイト」を聴いても…。あらかじめ決められたハード・ロックの様式美を超え出る過剰さがまったくない。僕はもう二度と見ないだろう。彼らはこの後のスリップノットやNINの演奏をどのように聴いていたのだろうか?
 
●ザ・ティアーズ
 非常に見たかったのだが、今回はちらっと見ただけ。スウェードよりも演奏レベルは高い。だが、彼らの音楽はいまひとつ心に響かない。スウェードの名前を知らずにザ・ティアーズの音楽を聴いている人は、果たして存在しているのだろうか?
 
●エコー・アンド・ザ・バニーメン
 ザ・ティアーズをちらっと見たあとで飛び込むや否や、屈指の名曲「キリング・ムーン」が。これだけでも満足なのだが、以後終演までの30分ほどは予想以上に楽しかった。暗いステージの上、黒のシャツにジャケットという姿でタバコをくゆらしながら歌うイアン・マッカロクのダンディズムが全面に押し出されている。彼特有の枯れた歌声が非常に魅力的だ。しみじみ思うが、相変わらず良いバンドだなぁ。
 
長くなったので、最後のナイン・インチ・ネイルズを残してとりあえずアップ。
 

*1:LTTEは"Liberation Tigers of Tamil-Eelam"の略語。LTTEスリランカ少数民族タミル人による過激派組織であり、タミル国家(イーラム)創設を目指し、武力闘争を繰り広げている。つい先日のスリランカ外相暗殺もLTTEの関与が疑われているが、LTTE側は否定しており、犯行声明も出ていない。インドのラジブ・ガンジー元首相を暗殺したことでも知られている。