新城カズマ / サマー/タイム/トラベラー1、2

 先日の『ブギーポップ』がつまらなかったので、他におもしろいものはあるはずだと思い、話題の新城カズマの作品を読んでみた。さすが話題になっているだけあって、なかなかおもしろい。本書は天才高校生たちを主人公とするSF小説なのだが、SFファンや頭の良い高校生を惹きつける撒き餌があれこれ散りばめられているところは、商売のうまさであると同時に、ミステリにおける新本格と同様のかなり意識的なジャンル的自己言及でもあるだろう。
 おそらく、この本を青春小説として、つまりは「切なさ」という感覚を惹き起こすための装置として読むならば、かなりうざい小説であるには違いない。語り手はすべてが終わったあとから、その終わってしまったという事実を何度もほのめかしながら物語を語っていくために、語られていく物語は取り戻すことができない儚い思い出として立ち現れてくるのだが、そのウケ狙いの語りがかなりありふれた手法であることは否定しがたい。
 要するに、この小説はあくまでSFの方向から読まなければおもしろくないだろうということ。事実、この過去の取り返しのつかなさは作中で何度か登場するジャック・フィニイの十八番だったはずだ。登場人物たちがしていたように、本書のタイムトラベルというモチーフ自体を過去のタイムトラベルもののなかに分類してみせるという愚直な読み方が本来はもっとも正統な読み方なのではないか。
 とは言え、必ずしもそのようなSF的な機能を機軸に作られていないところが本書の弱さでもあるだろう。フィニイの引き出しの代わりのメール、肖像の代わりのオブジェなど、かなりあっさりと書き捨てられている。おそらく作者は意識的なのだろうけれど、未来を悔恨の対象として描き出そうとするだけであるかのように読めて仕方がないところは正直言って残念だ。

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)