ジム・ジャームッシュ / ブロークン・フラワーズ

 ジャームッシュの最新作。ジャームッシュらしいオフビートなミニマリズムは健在だが、ビル・マーレイ独特のとぼけた雰囲気が映画全体に漂う。ビル・マーレイ演じる主人公の名前は『マイアミ・バイス』のイケメン俳優ドン・ジョンソンならぬ、"t"が多いドン・ジョンストン。このちょっと間の抜けた雰囲気がとても良い感じで、この映画を傑作にしている。
 ドンはドン・ファンのドンでもあり、昔は多くの女性と浮名を流した元プレイボーイ。今は情けない中年男だ。その男の下に差出人不明の一通の手紙が届く。その手紙には「あなたの息子がもうすぐ19歳になる」との文字が。差出人を探して、過去に付き合った女性の下を次々とドンが訪ね歩くというのが本作の主要な物語だ。
 ドンの彼女役には、ジュリー・デルピーシャロン・ストーンジェシカ・ラングなど豪華な女優陣が控えめに使われていて、非常に贅沢だ。控えめな演技のなかに、それぞれの登場人物が生きている異なる人生がさりげなく感じ取れる。
 細かな描写のおもしろさを指摘していくときりがないが、一番気に入ったのは老いたりとは言え女好きは健在らしいドンが、旅の途中でちょっと出会うだけの女性を見る際にも、ちらっと素足などを見てしまう一人称カメラが多用されている点。さすがに枯れているのか視線に嫌らしさはなく、にもかかわらず相手の目線を避けながらちらっと見てしまうところが微笑ましい(?)。
 爆笑を求めるなら見るべきではない。終わり方もオフビートだ。だが、人の様々な生に対する繊細な眼差しがここにはある。映画はもともとこのような作品を撮るべきメディアとして生まれてきたのかもしれない。
 
ブロークン・フラワーズ公式サイト
http://www.brokenflowers.jp/