ジョージ・クルーニー / グッドナイト&グッドラック

 ジョージ・クルーニーの監督作品。この映画はマッカーシズム赤狩り)の嵐が吹き荒れるさなか、マッカーシーに敢然と立ち向かったCBSの実在のニュースキャスター、エドワード・マローを描いている。マッカーシーについては、なんと本人自身のドキュメンタリー映像が使われており、映画内にうまく組み込まれている。
 この映画は何と言っても、俳優たちがとてもよい。マローを演じるデヴィッド・ストラザーンは絶妙のはまり役であり、報道する彼の低く力強い声は非常に魅力的だ。タバコを片手に画面に向かって揺るぎない視線を向けるダンディズムもばっちり決まっている。
 低い声と言えば、当時のテレビ界がそうだったのだろうが、この映画では男性ばかりの世界が描かれており、映画の初めから終わりまで低音が充満している。男性のダンディズム。低音の話し声。モノクロ。そしてタバコ。こうした要素によって、本編にフィルム・ノワールのような雰囲気を濃厚に漂っている。ファム・ファタールこそ出てこないものの。そうそう、酒のシーンが少ないのも残念なところ。
 途中で自殺してしまうマローの同胞ドン・ホレスベックを演じるレイ・ワイズも、繊細さというか気の弱そうなところをうまく演じていて印象的だ。同じくマローの同胞であるワーシュバ夫妻(ロバート・ダウニー・Jr.とパトリシア・クラークソン。特にパトリシア・クラークソンがよい)が職場結婚の禁止という内規を理由に事実上の解雇通告を受けた後、隠していた指輪をはめて、笑いながら自らの運命を受け入れていくところもすばらしい。CBSの社主ウィリアム・ベイリーを演じるフランク・ランジェラが持つ存在感もなかなかよろし。
 ただし、この映画に気になる点がないわけではない。一番気になるのは、演出のあまりの生真面目さだ。要するに、マローの戦いを物語ろう気負いすぎている。そのため、マッカーシズムそのものの恐ろしさはあまり伝わってこないし、同胞の自殺の描写も淡白すぎてマローにとって大した事件ではなかったかのようだ。映画の最初と最後にマローの演説を配置するという構成も、マローをヒーローとして描こういう気持ちは分かるが、「信念の男マロー」だけではあまりに堅苦しくないだろうか。もう少しマローや周囲を幅広く描くディテールが欲しい。事実、この映画の評価は政治的な評価ばかりじゃないか。
 
グッドナイト&グッドラック公式サイト
http://www.goodnight-movie.jp/