安彦良和 / 王道の狗

 白泉社版がついに完結したので、まとめて読んだ。『虹色のトロツキー』と並ぶ安彦良和の現代史物の決定版だと言えると思うが、まだ情報量の多さに圧倒されていて詳しく書けない。なので、とりあえずこの漫画のとっつきにくさについて簡単に記すだけに留める。
 時代的には自由民権運動が激化して秩父事件が起こるあたりから、日清戦争終結後の三国干渉あたりまでの歴史を、複雑さを殺いでしまわないように配慮されながら描かれている。もちろん物語である以上、物語るための単調化がなされていないわけではないものの(特に主人公の眼差しで歴史を見ている点などは歴史を描く際の不可避的な問題だ)、実際の歴史をモチーフにしている以上、分かりやすいカタルシスはここには存在しない。
 次に登場人物の内面について。この主人公に対して感情移入することは難しい。これについては当時と今とでは共有しているものが異なるとしか言いようがない。当時の日本人は今の日本人よりも日本についてはるかによく考えていたのであろう。そして、その考えが鈍い物質的な手触りとともに描き出されているために、この漫画が異様なものになっていると言えないか。主人公を含め登場人物たちの行動はすべて不可解だ。だが、その不可解さは決して失敗というわけではないのではないか。
 どうも、うまく書けない。しばらく時間をおいてから再読してみよう。
 

王道の狗 (1) (JETS COMICS (4221))

王道の狗 (1) (JETS COMICS (4221))