ザ・ポーグス / アルティメイト・ベスト

 昨日のライ・クーダー『チャベス・ラヴィーン』に関するエントリベンヤミンの歴史哲学について触れたが、僕がそれに触れたのは昨日が初めてではない。2004年6月12日のエントリにおいて、ベンヤミンの歴史哲学そのものをモチーフにしたローリー・アンダーソンの「ザ・ドリーム・ビフォー」という曲について書いている。
 ローリーのこの曲はベルリンの壁が崩壊する前に作られたものだが、現在のベルリンで年老いたヘンゼルとグレーテルが自分の人生を後悔し、お互いを罵り合い、歴史について考察している。淡々とした静かな朗読であるにもかかわらず、強烈な印象を残す衝撃的な曲だ。
 だが、このメランコリックな曲を聴いていると、僕はいつも陽気な(?)ザ・ポーグスの「ニューヨークの夢」という曲を思い出す。これはクリスマスソングとしてヒットしたこともあるザ・ポーグスの代表曲だ。こちらも男女の会話が歌になっており、しかも互いに罵り合いっているという意味では同じだ。だが、ザ・ポーグスの場合、妙に明るく、人間の愚かさを温かく見守っている。
 静かなピアノで始まるこの曲は、クリスマス・イヴの夜に酔っ払って牢屋に入れられた男が彼女の夢を見るシーンで始まる。続いて過去にフラッシュバックし、男女の掛け合いによってふたりの幸せな過去のクリスマスがアイリッシュなメロディに沿って歌われていくのだが、その後、過去から現在に戻るや否や、今度はふたりの壮絶な言い争いが歌われていくのだ(笑)。(女)「このロクでなし!」(男)「お前だってヤク中のバイタ! そのベッドで寝ていて点滴を打っていなければきっと死んじまうよ!」どんどんと盛り上がっていくメロディが楽しく、彼らの人生もそれなりに幸せな人生であるかのように思えてくる。
 一時、ジョー・ストラマーが在籍したこともあるアイリッシュ・パンクの皇帝ザ・ポーグスだが、彼らの人間に対する眼差しは温かい。もちろん酔っ払った眼差しではあるかもしれないが(笑)。
 やっぱり今年のフジロック初日のトリはコールドプレイを途中で抜け出し、ザ・ポーグスを見るかな。アイルランドからアメリカへの移民を歌う「アイリッシュ・ローバー」や「セイリング」、ブラス隊もノリノリのパンク・ソング「フィエスタ」なども聴きたいし。"But we dance to the music and we dance!"
 いや、"Dance"と書いたら、やはりザ・ポーグスの後に最高のトランスユニットROVOに行きたい気もしてきた…。昨年の朝霧の感動が甦る。大雨は勘弁だけれど。